タミフルを飲んだとみられる10代の方が、マンションから転落死するという痛ましい事故が過去にありました。
事故がきっかけで、厚生労働省は2007年3月に「タミフル服用後の異常行動について」という緊急安全性情報を発行しました。
医療関係者などに対して重大な注意喚起が必要な場合に、厚生労働省や製薬会社から提供される緊急性の高い情報。イエローレターとも呼ぶ
その緊急安全性情報はマスコミ等の報道により拡散し、タミフルと異常行動について強く関連付けられるようになりました。
その後のタミフル(リレンザ、イナビル)と異常行動の関連性について解説します。
インフルエンザ薬と異常行動
インフルエンザによく使われるインフルエンザ薬は、タミフル、リレンザ、イナビルです。
因果関係は不明であるものの、本剤を含む抗インフルエンザウイルス薬投薬後に、異常行動等の精神神経症状を発現した例が報告されている。
リレンザ、イナビル添付文書
(重要な基本的注意)
さらに、タミフルの添付文書にはもう一足踏み込んだ形で、異常行動についての注意喚起がされています。
10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。
このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控える。
また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、
- 異常行動の発現のおそれがある
- 自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮する
タミフルの添付文書(警告)
タミフルのみに異常行動の警告があるのではなく、リレンザ、イナビルの添付文書(医療者向けの薬の説明書)にも異常行動に気を付ける内容が記載されています。
タミフルの異常行動の例
タミフルの異常行動の例は、次のような状況です。
- 2階のベランダから飛び降りる(足骨折)
- 2階に走って行き、窓を開けて飛び降りた(足骨折)
- 突然、部屋の中を走り出す(動き回る)
- 興奮状態となり、意味のわからない言葉を言う
- 無いもの(見えないもの)が見えて、おびえ泣く
- 睡眠時、激しくうわ言をいったり、寝言を言う
- 無意味な行動を繰り返す
- 突然立ち上がって部屋から出ようとする
- 人に襲われる感覚を覚え、興奮する
しかし、これらの異常行動の例は、タミフルを飲んだときだけに起こるのではなく、インフルエンザ異常行動の例としてそのまま受け止められます(理由は後述)。
タミフル(インフルエンザ)の異常行動の例の共通点
- 突然
- 興奮
- 退出(外出)
- 幻覚など
『タミフルドライシロップとイナビルは子供に効かない?苦い味VS吸入』
インフルエンザ異常行動は「重度」「軽度」の2種類
厚生労働省では、2007年からインフルエンザ異常行動について引き続き研究が継続しています。
医師がインフルエンザと診断し、重度の異常行動を起こした時は、厚生労働省に報告するルールになっています。
厚生労働省が定めた重度異常行動の例
- 突然走り出す
- 飛び降り
- その他、予期できない行動であって、制止しなければ生命に影響がおよぶ可能性のある行動
厚生労働省が定めた軽度異常行動の例
- 会話中、突然話が通じなくなる
- おびえ、恐慌状態、見えないものが見えると言う
- わめく、泣きやまない、暴力、興奮状態
- はねる、徘徊する、その行動自体が直ちに生命に影響がおよぶとは考えられないものの、普段は見られない行動や無意味な動作の繰り返し
インフルエンザ異常行動の年齢と男女比
インフルエンザ異常行動は、10歳以下の男の子に多いことが厚生労働省の研究で分かっています。
しかし、タミフルの警告は「10歳以上の未成年の患者においては…」です。
おそらく、10歳以下の子供は異常行動を起こしても親の目の届く範囲にいる場合が多く、その異常行動に対処できますが、
10歳以上の子供は自由に行動でき、異常行動の対処が難しい場合があるため注意喚起がされているのでしょう。
インフルエンザ異常行動と年齢
(縦軸:人数)
(横軸:年齢)
出典:厚生労働省HP
インフルエンザの重度異常行動の男女差
(縦軸:頻度)
インフルエンザ異常行動は発熱後48時間以内 (タミフルとの関連性)
インフルエンザ出勤停止期間は、「インフルエンザを発症後5日を経過し、かつ、解熱後2日を経過するまで」が目安です。
インフルエンザ異常行動は、発熱してから2日(48時間)以内に、睡眠から突然覚醒して起こることが多いとわかっています。
タミフルの警告の「自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間(48時間)、保護者等は小児、未成年者が一人にならないよう配慮する」の根拠は、これらの研究結果にあります。
重度の異常行動の発現件数
(2009年-2010年~2012年-2013年までの合計)
この調査結果から、
タミフルを飲んでも、飲まなくても、異常行動はインフルエンザそのものが原因で起こっていいるのではないかと考えられます。
重度の異常行動と睡眠との関係
(縦軸:頻度)
『インフルエンザ薬 タミフルと吸入薬イナビルの効果と副作用』
タミフル、リレンザ、イナビルはインフルエンザ異常行動の原因?
重度の異常行動の報告件数
(件数はその他の薬の併用も含む)
この調査結果のポイントは2つです。
- タミフルだけに異常行動が起こるわけではなく、リレンザ、イナビルも同様に異常行動が起こる
- タミフル、リレンザ、イナビルを服用(吸入)している子供より、アセトアミノフェンを服用している子供の方が異常行動が多い
アセトアミノフェンはカロナールなどの解熱鎮痛成分で、インフルエンザの発熱によく使われる薬です。
そうであれば、インフルエンザ異常行動の原因は、発熱ではないでしょうか。
『インフルエンザの解熱剤にはカロナール(アセトアミノフェン)がベター』
インフルエンザ異常行動の原因は熱せん妄!?
- インフルエンザ異常行動の発生率は、タミフル服用の有無で差はない
- インフルエンザの発熱後2日(48時間)以内の異常行動が多い
- インフルエンザ異常行動は10歳以下の男の子に多い
- タミフル、リレンザ、イナビルを服用(吸入)している子供より、アセトアミノフェンを服用している(発熱している)子供の方が異常行動は多い
4つの事実から、
インフルエンザ異常行動の原因は、タミフル、リレンザ、イナビルではなく、インフルエンザの発熱による熱せん妄が原因と考えられています。
インフルエンザの発熱と熱せん妄
熱せん妄とは、インフルエンザなどの発熱が原因で、脳が誤認識している状態のことです。
熱せん妄は、主に次のような症状を起こします。
- 幻覚が見える
- 意味不明な言葉を発する
- 急に泣く
インフルエンザの軽度の異常行動にそっくりです。
熱せん妄は幼児~小学生低学年に起こり、それがちょうどインフルエンザ異常行動を起こす年齢(10歳以下)と一致します。
(熱せん妄は発熱が引き金のひとつですので、通常の風邪などでも起こる可能性があります)
『インフルエンザ予防薬タミフルとイナビル 予防投与の効果、飲み方、使い方』
まとめ
- インフルエンザ異常行動は、10歳以下の男の子が、発熱から2日(48時間)以内に、睡眠から覚醒時すぐに起こることが多い
- インフルエンザ異常行動の例は、幻覚、恐怖、興奮状態
- インフルエンザ異常行動の原因はタミフルと言われてきたが、今は因果関係は否定されている
- インフルエンザ異常行動が、タミフル、リレンザ、イナビルの服用(吸入)で起こるというデータはない
- それでも、タミフル、リレンザ、イナビルの添付文書には異常行動の注意喚起がされている
- タミフル、リレンザ、イナビルの服用(吸入)しているよりも、解熱剤であるアセトアミノフェン(カロナールなど)を服用している子供の方が、インフルエンザ異常行動を起こしやすい
- 今はインフルエンザ異常行動は、発熱による熱せん妄が原因ではないかと考えられている
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