妊娠糖尿病の治療と入院 インスリン注射は怖がらないでいいよ!

insulin

飲み薬の糖尿病治療薬が原因で、赤ちゃんの奇形の割合が増えたという証拠はありません。

しかし、次のような理由で、妊娠糖尿病の治療にはインスリンが使用されます。

  1. 糖尿病治療薬の飲み薬の多くは、添付文書上「妊婦禁忌(服用禁止)」である
  2. 糖尿病治療薬の飲み薬の成分が、胎盤を通過して、赤ちゃんが低血糖を起こす可能性がある
  3. インスリンを使ったほうが、妊娠中の血糖のコントロールがしやすい

インスリンも日本の添付文書によると

  • 本剤の妊婦への使用経験は少ない
  • 妊娠中の投与に関する安全性は確立していない

という記載が多く、添付文書上はインスリンでさえ妊婦への使用は消極的です。

そのため、実際の医療現場では、アメリカのFDAによる「胎児に対する薬の危険度を示す評価基準(FDA Pregnancy Category)」を用いらることが多いです。

FDA Pregnancy Category(FDA妊婦カテゴリー)抜粋

カテゴリー 概要
A
ヒト対照試験で、危険性がみいだされない
B ヒトでの危険性の証拠はない
C 危険性を否定することができない
D 危険性を示す確かな証拠がある
X 妊娠中は禁忌

FDA妊婦カテゴリーの評価を参考に、妊娠糖尿病のインスリン治療と入院について解説します。

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インスリン分泌と血糖コントロール

妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠 高血糖値は妊婦と赤ちゃんに悪影響
糖尿病治療中でも血糖のコントロール次第で、健康な方と同じように出産することができます。妊娠が原因で糖尿病となってしまう方もいます。どの程度コントロールできれば、安全に出産できるのでしょうか?

妊娠糖尿病のインスリン治療と入院を理解するために、インスリンの分泌について基本的なことを抑えましょう。

インスリンは、膵臓(すいぞう)で作られ、血糖を下げる作用をもつ唯一のホルモンです。

膵臓のβ細胞が、血糖の上昇を監視しています。

インスリン基礎分泌とインスリン追加分泌

上の図のように、絶えず少量のインスリンが分泌(基礎分泌と言います)されています。

食事をしたりして、膵臓が血糖の上昇を察知すると、速やかに追加のインスリンを分泌(追加分泌と言います)して、一定の血糖値を維持しています。

糖尿病合併妊娠の場合、血糖コントロールのために必要なインスリンの注射量は、妊娠前の1.5~2倍ぐらいに増加すると言われています。
胎盤からでる物質がインスリンの作用を妨げるからです。

インスリン注射を使った妊娠糖尿病の治療

妊婦必見!妊娠中の薬服用不安と心配を解くヒント その薬飲んで大丈夫?
妊娠中の薬の使用に抵抗があるのはあなただけではありません。妊娠の時期によって気を付ける薬も違います。赤ちゃんに対する薬の危険度を示す評価基準(FDA妊婦カテゴリー)で、新しい薬との付き合い方を提案します。

5種類のインスリン注射

  • 超速効型インスリン
  • 速効型インスリン
  • 中間型インスリン
  • 持効型インスリン
  • 混合型インスリン

インスリンの注射薬は作用の持続時間で5つに分類されています。

超速効型インスリンと速効型インスリンのインスリン分泌イメージ

超速効型インスリンと速効型インスリンのインスリン分泌イメージ

中間型インスリンと持効型インスリンの
インスリン分泌イメージ

中間型インスリンと持効型インスリンのインスリン分泌イメージ

混合型インスリンのインスリン分泌イメージ

混合型インスリンのインスリン分泌イメージ

「超速効型と速効型は、インスリンの追加分泌を模倣するイメージ」で、
「中間型と持効型はインスリンの基礎分泌を模倣するイメージ」です。

この5種類のインスリンを併用したり、使い分けて妊娠糖尿病の治療に用います。

妊娠糖尿病の方のインスリン分泌パターンを、非妊娠時の分泌パターンに近づけて、血糖が安定するようにするのです。

妊娠糖尿病の治療の目的は、血糖の安定化です。

超速効型インスリンと速効型インスリンを使った妊娠糖尿病の治療

超速効型インスリンと速効型インスリンを自己注射したときのインスリン追加分泌イメージ

超速効型と速効型は、インスリンの追加分泌を模倣するイメージでしたね。

妊娠糖尿病の治療では、1日3回食事の前にインスリンを自己注射して、足りていない追加分泌を補います。

「強化インスリン療法」とも呼ばれ、インスリンを非妊娠時と同じパターンに近づけます。

「強化インスリン療法」は、妊娠糖尿病の治療に限らず、通常の糖尿病治療でも使われる治療法です。

強化インスリン療法は、妊娠糖尿病のインスリン治療の第1ステップ的な位置づけです。

超速効型の方が、血糖降下作用がより速いため非妊娠時のインスリン分泌パターンに近いため、妊娠糖尿病のインスリン治療では、超速効型が使われることが多くなってきました。

妊娠糖尿病の治療で使用する超速効型インスリンと速効型インスリンの例

 注射タイプ インスリン名 一般名 FDA妊婦カテゴリー 添付文書
超速効型 ノボラピッド インスリンアスパルト B B
ヒューマログ インスリンリスプロ B C
アピドラ インスリングルリジン C C
速効型 ヒューマリンR ヒトインスリン B A

添付文書
A:特に記載なし
B:本剤の妊婦への使用経験は少ない
C:妊娠中の投与に関する安全性は確立していない

中間型インスリンと持続型インスリンを使った妊娠糖尿病の治療

持効性インスリンを寝る前に自己注射したときの基礎分泌の変化

中間型と持効型はインスリンの基礎分泌を模倣するイメージでしたね。

妊娠糖尿病で基礎分泌が不十分で、早朝など空腹時血糖値が高い人の場合は、強化インスリン療法にプラスして、眠前に持効型インスリンの注射を追加することがあります。

持効型インスリンは、妊娠糖尿病の治療の第2ステップ的な位置づけです。

強化インスリン療法と合わせて合計4回打ちになることがあります。

妊娠糖尿病の治療で使用する中間型インスリンと持続型インスリンの例

注射タイプ  商品名(例示) 一般名 FDA妊婦カテゴリー 添付文書
中間型 ヒューマリンN ヒトイソフェンインスリン B A
持続型 レベミル インスリンデテミル B C
ランタス インスリングラルギン C C

添付文書
A:特に記載なし
B:本剤の妊婦への使用経験は少ない
C:妊娠中の投与に関する安全性は確立していない

妊娠糖尿病のインスリン注射の誤解

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通常の糖尿病では、次のような誤解を良く聞きます。

  1. インスリンを始めたらもう止められない
  2. インスリンは糖尿病の末期治療
  3. インスリン注射は難しい
  4. インスリン治療は痛く、怖いもの

3と4は考えようによっては、そうかもしれませんが、1と2は全くの誤解です。

特に妊娠糖尿病では、妊娠が原因で血糖値が上がっている状態ですので、通常は出産して体調が落ち着けば、血糖も安定し、インスリンを使用する必要はなくなります。(後述)

インスリン注射は難しそう

インスリン製剤の型別難易度表と代表的製剤

インスリンの注射は本人が行います(自己注射)。

インスリンの自己注射は、確かに簡単ではありません。でも難しくもありません。

現在は、2種類のインスリン注射が簡単に使うことができます。

  • フレックスペン・フレックスタッチと呼ばれるペン型
  • イノレットと呼ばれるキット型

糖尿病の教育入院のときに使い方はマスターできます。(後述)

インスリン注射は痛そう・怖そう

注射の痛みの原因は針です。

皮膚の表面には1c㎡当たり100~200個痛点があると言われています。この痛点を避けることができれば痛みは軽減ですることができます。

針を細くすれば、痛点に触れる確率が下がります。

注射と言えば、予防接種や採血用に使用する太く(0.5~0.8mm程度)長い注射針を想像して怖くなりますが、インスリン注射で使う専用の注射針は、細く短く作られているため、痛みも怖さも少ないです。

ナノパスニードルII ナノパス34G

ナノパスニードルII ナノパス34G

「ナノパスニードルII ナノパス34G」は世界で最も細い注射針(※)です。

  • 注射針の太さ:0.18mm
  • 注射針の長さ:4mm

妊娠糖尿病の妊婦さんの体型(妊娠周期等)に合わせて、注射針の太さと長さが決まります。希望すれば「ナノパスニードルII ナノパス34G」を使える訳ではありません。

(※)2012年8月現在

注射針は「特定医療材料」の一種で保険を使うことができます

薬代(調剤報酬)の計算方法 薬剤料 特定保険医療材料料【2016年新薬価対応】
薬剤料は薬価と単位薬剤料を使って計算します。調剤報酬はパソコンで自動計算しますので、計算方法は意識的に学ばないとわかりません。

低血糖が怖そう

一昔前までは、インスリン注射後の食事を忘れたりすることが原因で、低血糖を起こすことが問題のひとつとなっていました。

しかし、超速効型と持効型のインスリンが開発されてからは、低血糖が起こる可能性は非常に低くなっています。

なぜならば、超速効型は食事のタイミングに合わせて、食直前に自己注射しますので、食事を忘れることはありません。

持効型インスリンは基礎分泌を模倣したのものです。
1日1回の自己注射で、低血糖を起こすほど血糖が下がることは、ほとんどありません。

妊娠糖尿病の入院

妊娠糖尿病の教育入院

妊娠糖尿病の場合は、通常の糖尿病より血糖の管理が難しいため、通常の糖尿病より教育入院となる頻度が高いです。
医師も教育入院を勧めることが多いです。

糖尿病の教育入院とは、糖尿病の勉強入院のことです。

  • 食事療法、運動療法とは?
  • 妊娠糖尿病とは?
  • 糖尿病の合併症とは?
  • SMBGとは?など

教育入院中に、インスリン注射の使い方もしっかり教えてくれます。

妊娠糖尿病の治療入院(管理入院)(検査入院)

妊娠糖尿病で、血糖のコントロールが出来ていないなど、妊婦や赤ちゃんに悪い影響を及ぼす可能性があるときに、半強制的に入院させられるのが治療入院です。

その際は、妊娠糖尿病の再教育(教育入院)も兼ねて、勉強させられます。

コンタクトレンズ、インプラント、出産費用、歯科矯正は医療費控除の対象?
治療を目的とする医療費は、医療費控除の対象です。しかし、治療を目的としない医療費の中にも、医療費控除の対象となるケースもあります。

インスリン注射はいつまで必要か

「インスリン注射はいつまで必要か?」という答えは、多くの場合は出産までです。

妊娠糖尿病の大きな原因は、胎盤から分泌される物質が、インスリンの作用を弱めてことです。(インスリン抵抗性と言います)

胎盤は4カ月くらいに完成し、どんどん大きくなり、出産前には500g程度になります。胎盤が大きくなるにつれ、インスリンの抵抗性も上がります。

出産後、胎盤も出てきますので、インスリンの抵抗性はなくなります。

ただし、妊娠糖尿病になった場合、将来糖尿病になる可能性は、妊娠糖尿病にならなかった女性と比較して高いというデータがありますので、引き続き糖尿病には注意が必要です。

妊娠糖尿病になった女性が糖尿病になる割合(産婦人科診療ガイドライン2014年より)

  • 産後1年以内:2.6%~38%
  • 産後5~16年以内:17%~63%

まとめ

  1. 妊娠糖尿病の治療では、インスリンが使用される
  2. インスリンの注射薬は、作用の持続時間で5つに分類
  3. 超速効型と速効型は、インスリンの追加分泌を模倣するイメージ
  4. 中間型と持効型は、インスリンの基礎分泌を模倣するイメージ
  5. 妊娠糖尿病は、インスリン注射の使い方の取得のため、教育入院することが多い
  6. 注射針は、細く・短く、痛みや恐怖を与えないように工夫されている
  7. 最近のインスリンは低血糖を起こしにくい
  8. たいていの場合、出産後、インスリン注射は必要がなくなる