薬局では、タミフル、イナビル、リレンザがインフルエンザの治療と予防に使われます。
タミフル、イナビル、リレンザのどれも作用機序は同じですが、服用(吸入)できる年齢や用法などに違いがあり、選択にコツがあります。
診察時に飲み薬と吸入薬の選択肢を与えられるケースもあります。
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの知識を整理しておきましょう。
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの共通事項 (違いなし)
タミフル、イナビル、リレンザの作用機序
インフルエンザウイルスは自分自身の力で増殖できません。
- インフルエンザウイルスはヒトなどの細胞に入ります
- その中でコピーウイルス(子ウイルス)を作ります
- その後インフルエンザウイルスは細胞から出て、別の細胞に入りインフルエンザ感染細胞を増やします
タミフル、イナビル、リレンザは、インフルエンザウイルスが細胞から出て行く過程をブロックします。
インフルエンザウイルスが細胞外へ出ていかなければ、それ以上増殖できなくなり、やがて免疫によってインフルエンザウイルスは死滅します。
タミフル、イナビルの使用(吸入)はインフルエンザ発症後(接触後)2日(48時間)以内
1つのインフルエンザウイルスが、24時間後には約100万個のウイルスに増殖するといわれています。
タミフル、イナビルは、インフルエンザウイルスの増殖を抑えるだけで、殺ウイルス作用はありません。
そのため、インフルエンザ発症後(接触後)、速やかにインフルエンザ薬を服用(吸入)して治療(予防)を開始します。
- タミフル、イナビルを治療に使用する場合は、インフルエンザ発症後2日(48時間)以内に、服用(吸入)を開始します。
- タミフル、イナビルを予防に使用する場合は、インフルエンザ患者に接触後2日(48時間)以内に、服用(吸入)を開始します。
リレンザの吸入は、インフルエンザ発症後(接触後)1.5日(36時間)以内です。
タミフル、イナビル、リレンザの効果はA型・B型インフルエンザのみ
タミフル、イナビル、リレンザは、C型インフルエンザウイルスと細菌には効果がありません。
妊婦、子供、高齢者は、インフルエンザ発症後に細菌による肺炎を起こす可能性が健康な大人と比較して高いです。
『【妊婦のインフルエンザ】タミフル、イナビル、リレンザは赤ちゃんに大丈夫?』
タミフル、イナビル、リレンザの異常行動
タミフルと異常行動についての報道が強烈だったためか、タミフルのみ異常行動を起こすと思っている方が多いようです。
実際は、イナビル・リレンザにも、異常行動を起こす可能性が添付文書(医療者向け薬の説明書)に記載されています。
現在、タミフル、イナビル、リレンザと異常行動との因果関係は否定させており、インフルエンザに感染した人は、異常行動を起こす可能性があると考えられています。
特に子供の場合、インフルエンザで発熱してから少なくとも2日間(48時間)は、一人にならないように配慮する必要があります。
『タミフル、リレンザ、イナビルはインフルエンザ異常行動の原因?』
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの違い
タミフル
タミフルは2001年に発売されたA型、B型インフルエンザに効果のある唯一の飲み薬です。
タミフルの主成分は、オセルタミビルです。
タミフルにはタミフルカプセルとタミフルドライシロップの2種類があり、タミフルカプセルは主に大人用、タミフルドライシロップは主に子供用です。
タミフルドライシロップには、味の欠点があります。
タミフルドライシロップを口の中にいれると一瞬甘みを感じますが、すぐに苦い味を感じるため子供がすすんで飲んでくれません。最悪の場合吐きます。
タミフルドライシロップは、子供に飲ませるのに苦労します。
『タミフルドライシロップとイナビルは子供に効かない?苦い味VS吸入』
イナビル
イナビルはプロドラッグ
脂溶性ラニナミビルは、主に肺で水溶性ラニナミビルになり、インフルエンザウイルスの増殖を抑えます。
イナビルのように体内で活性化され薬効を示す薬をプロドラッグといいます。
出典:第一三共HP
イナビルが1回で治療が終了する理由
イナビルが1回で治療が終了する理由は、次のとおりと考えられています。
- 水溶性ラニナミビルが、インフルエンザウイルスの主な増殖場所で肺に長時間残るため
- インフルエンザウイルスが、細胞から出て行く過程を強力にブロックするため
イナビルの吸入成功率
イナビルの吸入成功率は【医療機関90% > 自宅80%】と言われています。
イナビルの吸入に失敗した場合、咳込む(むせる)ことがあります。(←けっこうオエっとなります)
さらに、イナビルの粉の苦みが口の中に広がります。
咳込んだときは、インフルエンザウイルスが周りに飛散します。順番待ちの患者さんや、医療従事者に感染させる可能性があります。
リレンザ
リレンザは、ザナビミルを主成分とする吸入薬です。
粉薬を喉から肺に届け、直接インフルエンザウイルスの増殖を抑えることができるため、即効性があると言われています。
リレンザの欠点は、ディスクインヘラーの操作の難しさです。
操作が簡単なイナビル発売以降は、リレンザの使用は減少しています。
リレンザの吸入方法は、【You Tube「リレンザ吸入方法」0:35~】を参照
このとおり、リレンザの吸入にはちょっとコツが入ります。
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの治療投与の飲み方(使い方)の違い
– | 対象 | 用法用量 | 投与期間 |
---|---|---|---|
タミフル | 37.5kg以上の子供大人 | 1回1カプセル、1日2回 | 5日間 |
タミフルDS | 37.5kg以下の子供 (1歳以上) |
1回0.067g/体重1kg 1日2回 |
|
イナビル | 10歳以上の子供大人 | 1回2本 | 1日間 |
10歳未満の子供 | 1回1本 | ||
リレンザ | 大人子供共通 | 1回2ブリスター、1日2回 | 5日間 |
タミフルDS:タミフルドライシロップ
インフルエンザの飲み薬であるタミフルは、体重で用量が細かく設定されていますが、吸入薬のイナビルは年齢、リレンザは大人子供共通で用量が設定されています。
2015年-2016年シーズンまでは、タミフルドライシロップは1歳以上からしか使えませんでした。
2016年11月24日から、医師の判断で0歳児もタミフルドライシロップを使えるようになりました。
約0.1g/体重1kg、1日2回、5日間服用
イナビル、リレンザは吸入できるのであれば、何歳からでも使用は可能です。
ただし、正確に吸入できる年齢は5歳以上と言われています。
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの予防投与の飲み方(使い方)の違い
予防投与の飲み方(使い方)
– | 対象 | 用法用量 | 投与期間 |
---|---|---|---|
タミフル | 37.5kg以上の子供 | 1回1カプセル 1日1回 |
7~10日間 |
大人 | 10日間 | ||
タミフルDS | 37.5kg以下の子供 | 1回0.067g/体重1kg 1日1回 |
|
イナビル | 10歳以上の子供大人 | 1回1本 | 2日間 |
1回2本 | 1日間 | ||
10歳未満の子供 | 1回1本 | 1日間 | |
リレンザ | 大人子供共通 | 1回1ブリスター、1日1回 | 10日間 |
タミフルDS:タミフルドライシロップ
2016年-2017年シーズンから
- 10歳未満の子供もイナビル予防投与ができるようになりました
- 10歳以上の子供大人は、イナビル2本を1日1回、1日間単回吸入の予防投与法も選択できるようになりました
タミフル、イナビル、リレンザを予防投与に使う場合は、治療投与の1日半分量を、2倍の期間で服用(吸入)するのが基本的な考え方です。
(例外がイナビルにあり)
予防投与の効果期間
タミフルは、リレンザは連続して服用(吸入)している期間のみインフルエンザに対して予防効果が認められていますので、最大10日間です。
イナビルは、1回目の吸入を開始してから10日間、予防効果が認められています。
『インフルエンザ予防薬タミフルとイナビル 予防投与の効果、飲み方、使い方』
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの治療投与の効果の違い
リレンザとタミフル、イナビルの比較試験は行われていないため、効果の違いは不明です。
タミフルとイナビルの大人に対する治療効果は、同等です。
タミフルとイナビルの子供に対する治療効果は、イナビルの方が効果があるという比較試験の結果もあります。
『インフルエンザ薬 タミフルと吸入薬イナビルの効果と副作用』
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの副作用の違い
タミフル、イナビル、リレンザの副作用の頻度(大人)
副作用 | タミフル | イナビル | リレンザ |
---|---|---|---|
腹痛 | 0.30% | – | – |
下痢 | 0.50% | 0.31% | 0.24% |
めまい | – | 0.11% | – |
悪心 | 0.30% | 0.08% | ※0.13% |
発疹 | 0.20% | 0.13% | – |
その他の副作用 | 0.80% | 0.77% | 0.93% |
副作用合計 | 2.10% | 1.40% | 1.30% |
※悪心嘔吐の合計
副作用のデータは販売後の調査結果(再審査、使用成績調査)
大人のタミフル、イナビル、リレンザの副作用の頻度は全体的に低いですが、下痢、吐き気などの消化器系症状の副作用がわずかにあります。
副作用ではありませんが、次のようなことにも注意が必要です。
- 吸入薬(イナビル、リレンザ)は粉薬が肺に入り、咳込む(むせる)
- 飲み薬(タミフルドライシロップ)は、味が苦いため吐く
インフルエンザ薬タミフル、イナビル、リレンザの耐性ウイルスの違い
タミフル耐性ウイルス
国外及び国内臨床試験における本剤に対する耐性ウイルスの出現率は成人及び青年では0.32%(4/1,245例)、1~12歳の子供では4.1%(19/464例)であった。
タミフルカプセル添付文書より
ある一定の割合で、耐性ウイルスが出現します。
2008年-2009年シーズンにタミフル耐性ウイルスが流行しましたが、新型インフルエンザ発生と共に消失しました。
耐性ウイルスとは、一般的に抗ウイルス薬が効かないウイルスのことを言いますが、タミフルのメーカーは次のように反論しています。
タミフル耐性ウイルスはPCR法で遺伝子変異を確認したものであり、必ずしも臨床的に無効を意味するものではありません
では、タミフル耐性ウイルスなんて変な命名されてしまったのでしょうか。
タミフル耐性ウイルスについては、いまいちスッキリしません。
イナビルとリレンザの耐性ウイルス
リレンザ耐性ウイルスは1例確認されていますが、イナビル耐性ウイルスは今のところ確認されていません。
まとめ
- 診察時に飲み薬と吸入薬の選択肢を与えられるケースもあり、タミフル、イナビル、リレンザの違いについて知っておくことは大事
- タミフル、イナビル、リレンザと異常行動との因果関係は否定させており、
インフルエンザに感染した人は、異常行動を起こす可能性があると考えられている - タミフル、イナビル、リレンザはインフルエンザの治療と予防に使用される
- 大人のタミフル、イナビル、リレンザの副作用の頻度は全体的に低い。下痢、吐き気などの症状の副作用がわずかながらある。
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