「物忘れ外来」
駅広告、病院・クリニックのホームページでも本当に多く見かけるようになりました。次のように表示している病院・クリニックもあります。
- もの忘れ外来(ひらがな)
- 認知症外来(直接的でわかりやすい)
- メモリークリニック
- 老年病科
また
- 脳神経外科(物忘れ外来)
- 神経内科(認知症外来)
- 精神科(物忘れ外来)
とカッコ表示している場合もあり、認知症は何科に属するのか?最初は何科を受診すればよいのか?分かりにくい状態です。
最近の認知症を取り巻く状況から、物忘れ外来の科の選択のヒントまで解説します。
認知症患者が急増する理由【認知症の有病率】
西暦 | 推定認知症患者数 |
---|---|
2002年 | 150万人 |
2012年 | 462万人 |
2025年 | 700万人 |
上のグラフと表は、厚生労働省が発表している認知症患者の推定数です。なぜ、これだけ多くの方が認知症を患ってしまうのでしょうか?
認知症の増加は、高齢化が原因のひとつ
日本の平均寿命は、2014年の調査によると、男性が80.50歳、女性が86.83歳です。男性も女性も長生きすることができるようになり、65歳以上の高齢者が増えてきています。
一昔とは異なり、一般的に高齢者と呼ばれる65歳以上の方でもお元気で、はつらつとされています。
しかし、認知症を発症する最大の原因は加齢ですので、その元気さとは無関係です。
そのため、認知症は高齢者の増加に比例して増えると予想できますが、実際は高齢者が増えた以上に、認知症の方は急増しています。
認知症は80歳を超えると有病率が急増する
認知症の年齢層別有病率
(2014年東京都長寿医療センター資料を参考に作成)
なぜなら、加齢とともに認知症の有病率は二次曲線的に増加するからです。
例えば、60歳代全体における認知症になる方の割合(有病率)は、1%程度ですが、80歳代になると認知症の有病率は10%を超えます。
認知症は長期養生を必要とする病気のひとつです
認知症を取り巻く環境の変化
昔は、子供が大人の面倒をみてきました。
しかし、子供の数自体が減り、共働きで働いている家庭も多いです。子供(大人)が親(高齢の大人)を面倒を見ることも難しくなってきました。介護施設にも頼りたいですが、施設は足りていない状況です。
高齢者の一人暮らしも多くなりました。65歳以上の高齢者が80歳代~90歳代の高齢者をみるという老老介護という言葉も生まれました。
このような背景もあり、社会全体が認知症を強く認識しなくてはなりました。
高齢化率と高齢者人口 都道府県別トップ5とワースト5
2014年の国勢調査の結果から全国の高齢化率を計算すると、25.1%です。
高齢化率トップ5とワースト5(都道府県別)
高齢者人口トップ5とワースト5(都道府県別)
高齢化率が最も高い秋田県(31.5%)の65歳以上の高齢者人口は約29万人です。一方、高齢化率の最も低い東京都(21.9%)の高齢者人口は約291万人と10倍になります。
東京のような都市部は高齢者が少なく、子供が多いイメージですが、実際は最も高齢者が住んでいる街でもあります。
つまり、認知症の方も日本で最も多いと考えられます。
物忘れ外来(認知症外来)とは何科なの?
- 脳神経外科(物忘れ外来)
- 神経内科(認知症外来)
- 精神科(物忘れ外来)
- 老年病科
物忘れ外来(認知症外来)とは、一体何科なの?ということでしたね。
日本認知症学会専門医制度に、認知症が何科に属するのかのヒントが隠されています。
専門医制度細則に定める認知症関連学会(日本精神神経学会、日本神経学会、日本老年医学会、日本リハビリテーション医学会、日本内科学会、日本脳神経外科学会、日本老年精神医学会)のいずれかの専門医資格を有すること
日本認知症学会「専門医申請の条件」(抜粋)
認知症の専門医となるためには、精神科、神経科、内科、脳神経外科、リハビリ科などの専門医資格を持っている必要があると言うことです。
つまり、物忘れ外来(認知症外来)が何科なのかというと、精神科、神経科、内科、脳神経外科、リハビリ科から派生してきた科と言えます。
実際は、物忘れ外来で認知症を専門的に診察している医師は、精神科、神経内科、脳神経外科出身が多いそうです。
そのため、医師が何科を専門にしているかで、認知症に対してのアプローチの仕方が違うということです。
近所に物忘れ外来をあげている病院・クリニックがないこともあると思います。
認知症の初期症状(物忘れ等)が気になるときは、精神科、神経内科、脳神経外科で診察してくれるはずです。
精神科、神経内科、脳神経外科ですが、名前が似ていて違いがわかりにくいと言われています。
次の、この3つの科の特徴と、認知症の症状へのアプローチについて解説します。
各科の物忘れ外来(認知症外来)の特徴
精神科の物忘れ外来(認知症外来)
精神科は心の病気を専門に扱う科です。
心の病気の主な症状は、不安・うつ・イライラ・幻覚・妄想・不眠等です。
つまり、精神科出身の物忘れ外来(認知症外来)の医師は、次のような治療を得意としていることが多いです。
- アルツハイマー型認知症で出現しやすい
・行動症状(興奮、攻撃、大声)
・心理症状(うつ、不眠、妄想、幻覚) - レビー小体型認知症で出現しやすい幻覚(幻視)
神経内科の物忘れ外来(認知症外来)
神経内科は、精神科とは異なり、精神的な心の問題からではなく、脳から筋肉にかけての神経に原因がある病気や症状を専門に扱う科です。
脳神経内科と表記している場合もあり、その場合は脳神経系の病気(症状)の治療を専門にしています。
脳神経系の病気(症状)の具体的な例は、てんかん(けいれん)、パーキンソン病などです。
つまり、神経内科出身の物忘れ外来(認知症外来)の医師は、レビー小体型認知症で出現しやすい、パーキンソン症状などの治療を得意としていることが多いです。
脳神経外科の物忘れ外来(認知症外来)
脳神経外科は神経内科と似ているところがありますが、精神的な問題からではなく、脳神経に原因があり、体に出ている病気(症状)を専門に扱う科です。
脳神経内科は、治療の主が薬を使用してですが、脳神経外科は字の通り手術を行なうことがあります。
認知症の中には、外科的なアプローチで原因をとり除くことでよくなる場合もあります。慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、特発性正常圧水頭症などです。
説明が難しいので、「認知症の原因の中には、外科的なアプローチで原因をとり除くことでよくなるタイプがある」ということだけ、頭の片隅に置いてもらえれば十分です。
まとめ
- 認知症の最大の原因は加齢
- 高齢者が増えた以上に、認知症の方は増えていく
- 社会全体が認知症を強く認識しなくてならない
- 物忘れ外来で認知症を専門的に診察している医師は、精神科・神経内科・脳神経外科出身であることが多い
- 物忘れ外来は、診察する医師の出身科により、認知症に対してのアプローチの仕方が異なる
- 物忘れ外来が「何科」なのかを端的に答えるならば、精神科・神経内科・脳神経外科から派生した科
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