妊娠前に糖尿病であっても血糖値が良ければ、糖尿病ではない人と同じように妊娠して出産できます。
しかし、血糖値が高い状態の妊娠は、妊婦や赤ちゃんに悪い影響を与えます。
血糖値のコントロール不良時の赤ちゃんへの悪い影響のひとつは、奇形確率の上昇です。
日本糖尿病・妊娠学会によると、
通常妊婦の奇形確率(奇形頻度)は1.9%です。
妊娠前に糖尿病治療を行っていた場合の奇形確率は2.1%で、妊娠後に治療をはじめた場合は9.0%です。
血糖値の目標数値は、学会によって微妙に違います。
本記事は、日本糖尿病・妊娠学会の血糖値の目標数値を使用しています。
高血糖値は妊婦と赤ちゃんに悪影響
妊婦への影響 | 赤ちゃんへの影響 |
---|---|
糖尿病性網膜症 | 先天奇形 |
糖尿病性腎症 | 巨大児 |
流産 | 死亡 |
早産 | 発育障害 |
妊娠高血圧症候群 | 心臓肥大 |
羊水過多 | 低血糖値症 |
巨大児による難産 | – |
肩甲難産 | – |
糖尿病の3大症状 (3大合併症)
血糖値が高い状態が続くと、細かい血管がぼろぼろになってきます。
細かい血管は、目・腎臓・手足先に通っていて、その部分に症状が出てきます。
次のあげる症状は、妊娠糖尿病だけではなく、糖尿病合併妊娠、通常の糖尿病にも共通して言えることです。
症状1: 糖尿病性網膜症
糖尿病性網膜症は、糖尿病になってから10年以上経過すると発症することが多い失明原因の第一位の病気です。
目には細い血管が張り巡らされています。
- 高血糖値が続くと血管が傷つき詰まりやすくなり、網膜(目で何かを見るための膜)に酸素が行き渡らなくなります。
- 目に新しい血管(新生血管)を増やして酸素不足を補いますが、新生血管はもろいため、出血を起こしやすく、網膜剥離を起こすことがあります。
症状2: 糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は、透析を受ける原因の第一位の病気です。
- 血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つき詰まりやすくなります。
- 腎臓の血管が傷つき詰まったりしてしまうと、老廃物をろ過できなくなります。
症状3: 糖尿病性神経障害
手足の先に痛みやしびれといった症状が生じ、最終的には切断の原因となります。
糖尿病神経障害の原因
- 仮説1
血糖値が高い状態が続くと、障害を起こす物質が神経細胞に蓄積するため障害が起こる - 仮説2
血糖値が高い状態が続くと、酸素や栄養が不足するため障害が起こる
妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠の違い
糖尿病治療中の方の妊娠を糖尿病合併妊娠と言います。
妊娠によって発見された糖代謝異常を「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病 」と言います。
「妊娠糖尿病」と「妊娠中の明らかな糖尿病」は、診断基準が違うため、別の病名が付けられています。
本サイトでは、簡略化のためこの2つの糖代謝異常をまとめて妊娠糖尿病と記載します。
体内から放出されるホルモンと摂取糖分のバランスが崩れているため、血糖値が基準値を超える
糖尿病合併妊娠 (妊娠前から高血糖)
妊娠初期が奇形に最も注意
赤ちゃんの奇形などの確率を減らすために、妊娠前から血糖値のコントロールをを心がけます。
重要なことは妊婦になった後からではなく、赤ちゃんが欲しいと思ったとき、妊婦になる前からの血糖値のコントロールです。
なぜなら、赤ちゃんの体の基本的な部分は、妊娠初期(妊娠7週まで)にできあがります。
この時期に血糖値のコントロールが悪いと、奇形の確率が高いことがわかっています。
しかし、妊娠に気付くのは早くても妊娠4~5週目以降です。
妊娠に気付いてから血糖値を改善したのでは、遅いのです。
妊娠期 | 妊娠超初期 | 妊娠初期 | 妊娠中期 | 妊娠後期 | |
---|---|---|---|---|---|
月数 | 1カ月 | 2カ月 | 4カ月 | 5カ月~7カ月 | 8カ月~10カ月 |
妊娠週数 | 0週~3週 | 4週~7週 | 8週~15週 | 16週~27週 | 28週~39週 |
薬の影響期 | 無影響期 | 絶対過敏期 | 相対過敏期 | 潜在過敏期 |
糖尿病の薬の飲み方と効果
妊娠前の血糖値、HbA1cの数値目標
妊娠前の血糖値の数値目標
- 食前(空腹時)血糖値
100mg/dL未満 - 食後2時間血糖値
120mg/dL未満 - HbA1c
6~7%未満 - 糖尿病の合併症がない。
もしくは、治療を受けて状態が安定している
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは
HbA1cの数値は血糖値コントロール指標のひとつで、1~2カ月間の血糖値変化の成績として利用されています。
HbA1cは、JDS値とNGSP値(国際基準値)があり、2012年4月1日以降はNGSP値が用いられています。
HbA1c6.5%以上が糖尿病型です。
妊娠前から取り組む計画妊娠
糖尿病の3大症状(3大合併症)のうち、糖尿病性網膜症と糖尿病性腎症があると、妊娠で急速に症状(合併症)が進行することが分かっています。
妊娠前に糖尿病合併症の状態や血糖値のコントロールの状態をチェックして、問題なければ医師の許可をもらって妊娠することを「計画妊娠」と言います。
「妊娠に医師の許可?ほっといてよ」
という声が聞こえてきそうですが、それほど妊娠初期の血糖値は重要です。
また、血糖値がよくないまま妊娠し、急な血糖値の変動が原因で眼底出血が起きることもあります。
妊娠糖尿病 (妊娠後に高血糖)
妊娠糖尿病とは、妊娠が原因で起こった糖代謝異常でしたね。
妊娠すると胎盤からインスリンの働きを抑えるホルモン(プロゲステロン、プロラクチン)のが増えます。
そのため、妊娠中はインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性と言います)になり、血糖値が上昇しやすくなります。
インスリンとは
インスリンは、すい臓で作られている血糖値効果作用をもつ唯一のホルモンです。
妊娠後の血糖値・HbA1cの数値目標
妊娠後の血糖値の目標
- 食前血糖値
100mg/dL未満 - 食後2時間血糖値
120mg/dL未満 - GA
15.8%未満 - HbA1c
正常範囲(6.2%未満)
血糖値コントロールの指標のひとつで、1~2週間の血糖値変化の成績として利用されています。
通常の糖尿病はHbA1cを使いますが、妊娠糖尿病のように厳しく血糖値のコントロールを必要とする場合や、通常の糖尿病で治療薬を変更した後の状況をすばやく把握したいときなどは、GAが使われる場合があります。
まとめ
- 血糖値のコントロールが良くないと、妊婦と赤ちゃんの両者に悪い影響を及ぼす
- 「糖尿病合併妊娠」は、糖尿病治療中の方が妊娠した場合の名称
- 「妊娠糖尿病」は、妊娠によって発見された糖代謝異常の名称
- 妊娠後に血糖値を気にしても遅い
- 妊娠前に糖尿病合併症の状態や血糖値のコントロールの状態をチェックし、医師の許可後、妊娠すること「計画妊娠」という
- 妊娠前と妊娠後の血糖値のコントロール目標値は違う
コメント