マイコプラズマ肺炎は怖い名前ですが、身近に起こる風邪のような感染症のひとつです。
子供のマイコプラズマ肺炎の症状の経過は、たいてい発熱した後に咳が出て、熱が下がっても咳だけだらだら続く場合が多いです。
現在、子供のマイコプラズマ肺炎に使われる主な抗生物質(通称、マイコプラズマ肺炎薬)は、3種類+ミノマイシンです。
- クラリス(クラリスロマシン)
マクロライド系抗生物質 - ジスロマック(アジスロマシン)
マクロライド系抗生物質 - オゼックス(トスフロキサシン)
ニューキノロン系抗菌薬
ただし、ミノマイシンは副作用の面から子供には使いにくい抗生物質でもあり、使用には注意が必要です。
『ミノマイシンはめまいと歯の副作用に注意 本当はニキビに使いにくい』
適切な時期にマイコプラズマ肺炎薬を飲めば、マイコプラズマ肺炎の熱は2.3日で下がります。
しかし、最近は子供ですら特定の抗生物質の耐性菌が増え、マイコプラズマ肺炎の熱が下がらず抗生物質が変更になるケースも増えてきました。
子供のマイコプラズマ肺炎原因菌
マイコプラズマ肺炎の原因菌は肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニア)です。
肺炎マイコプラズマは細菌に分類されていますが、細胞壁(植物・細菌などの細胞保護する働きを持つ外側の壁)を持たないウイルスに近い細菌です。
そのため、肺炎マイコプラズマに効果のある薬(抗生物質)は限られています。
最近では、その限られた抗生物質に効かない耐性菌が問題になっています。
子供の肺炎マイコプラズマ耐性菌
マイコプラズマ肺炎で1番に選択されるのが薬は、クラリス・ジスロマックなどのマクロライド系抗生物質です。
しかし、2000年くらいからマクロライド系抗生物質(特にクラリス)が効かない肺炎マイコプラズマ(マクロライド耐性マイコプラズマ)が増え、
マイコプラズマ肺炎の治療が思うように進まなくなってきています。
なぜ、肺炎マイコプラズマ耐性菌が増えてしまったのでしょうか?
本来、抗生物質が効かないはずの子供の風邪にクラリスを使いすぎたからです。
マイコプラズマ肺炎薬 子供用1: クラリスドライシロップ小児用 クラリス錠50小児用
マクロライド系抗生物質には、エリスロシン(エリスロマイシン)という薬もあります。
しかし、エリスロシンを子供のマイコプラズマ肺炎薬として使用する場合、1日4回以上・14日間程度飲む必要があります。
エリスロシンの服用回数の負担を改良した抗生物質がクラリスドライシロップ10%小児用・クラリス錠50小児用(以下クラリス)です。
1日2回の服用で子供のマイコプラズマ肺炎薬として使えます。
クラリスの主成分
クラリスはクラリスロマイシンを主成分とするマクロライド系抗生物質です。
クラリスは幅広く子供の病気に使用されています。
- 咽頭・喉頭炎
- 急性気管支炎
- 肺炎・肺膿瘍
- 中耳炎・副鼻腔炎など
クラリスの飲み方
クラリスを子供のマイコプラズマ肺炎薬として使用する場合、1日2回・10日間服用するのが標準です。
クラリスの効果
子供を対象としたクラリスのマイコプラズマ肺炎への有効率(効果)は83.8%です。
(クラリス使用成績調査より)
耐性菌が問題とならなければ、クラリスを飲んで2.3日もすればマイコプラズマ肺炎の熱は下がってきます。
『子供のマイコプラズマ肺炎の症状 咳が止まらない・熱も下がらない』
クラリスの副作用
クラリスの主な副作用は、腹痛・下痢などの消化器症状で、承認時の副作用発現率は2.67%です。(副作用全体3%)
『クラリスロマイシン(クラリス/クラリシッド)は風邪には効かない!それでも使う理由は』
マイコプラズマ肺炎薬 子供用2: ジスロマック細粒小児用
エリスロシンをクラリス以上に改良した抗生物質がジスロマック細粒小児用10%(以下、ジスロマック)です。
ジスロマックは1日1回の服用で子供のマイコプラズマ肺炎薬として使えます。
ジスロマックの主成分
ジスロマックはアジスロマイシンを主成分とするマクロライド系抗生物質です。
ジスロマックの飲み方
ジスロマックを子供のマイコプラズマ肺炎薬として使用する場合、1日1回・3日間服用するのが標準的です。
ジスロマックの効果
子供を対象としたマイコプラズマ肺炎へのジスロマックの有効率(効果)は100%です。
耐性菌が問題とならない場合、ジスロマックを飲んで2.3日もすればマイコプラズマ肺炎の熱は下がってきます。
ジスロマックはクラリスほど有名ではありませんが、最近では歯科でも使われるようになってきた印象があります。
- 咽頭・喉頭炎
- 扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)
- 急性気管支炎
- 肺炎・肺膿瘍
- 中耳炎
ジスロマックの副作用
ジスロマックの主な副作用も、クラリスと同様に下痢などの消化器症状で、承認時の副作用発現率は3.28%です。(副作用全体13.12%)
2歳未満の子供は、2歳以上の子供と比較して下痢、軟便などの消化器症状の副作用の発現頻度が高いです。
クラリスとジスロマックは味が苦い(まずい)
クラリス、ジスロマックなどのマクロライド系抗生物質は、味が苦いため子供には不評です。
苦味はコーティングはされていますが、薬の成分自体が苦い味が隠しきれていません。
- クラリス:イチゴ味
- ジスロマック:オレンジ・パイナップル味
クラリス、ジスロマックは、子供に飲ませるには何かに混ぜて苦みを隠す努力が必要です。
しかし、クラリス、ジスロマックのコーティングは酸性に弱いため、酸性のモノと混ぜるとコーティングが剥がれて苦味がまともに出ます。
味が良好 | 濃厚アイスクリーム ココア |
味がまずまず良好 | プリン、ミルク |
味が最悪 | ヨーグルト うすいリンゴジュース うすいオレンジジュース スポーツドリンク |
インフルエンザ薬タミフルの味もツライです。
『タミフルドライシロップとイナビルは子供に効かない?苦い味VS吸入』
マイコプラズマ肺炎薬 子供用3: オゼックス細粒小児用
マクロライド耐性マイコプラズマが増え、マイコプラズマ肺炎の治療が年々難しくなってきているのは先述のとおりです。
そこで、ニューキノロン系抗菌薬オゼックス細粒小児用15%(以下、オゼックス)が2010年に発売されました。
有名なクラビット(レボフロキサシン)、ジェニナック(ガレノキサシン)は大人専用のニューキノロン系抗菌薬です。
オゼックスは15歳未満の子供でも使える唯一のニューキノロン系抗菌薬です。
オゼックスは経験的に肺炎マイコプラズマに使われてきましたが、2017年3月、適応菌種に肺炎マイコプラズマが追加承認されました。
オゼックスの主成分
オゼックスはトスフロキサイシンを主成分とするニューキノロン系抗菌薬です。
オゼックスは子供の肺炎や中耳炎に主に使われ、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)などの耐性菌にも効果が期待できます。
オゼックスは、クラリスやジスロマックに耐性菌を持った、クラリス・ジスロマックが効かない子供のマイコプラズマ肺炎薬としても知られています。
オゼックスの飲み方
オゼックスをマイコプラズマ肺炎薬として使用する場合、1日2回・7~14日間服用するのが標準的です。
クラリス、ジスロマックは悲惨な味ですが、オゼックスはどちらかというと飲みやすい味(イチゴ味)の薬になるかと思います。
「飲みやすい」以上と判定された患者は全体の99.4%であった
オゼックス細粒添付文書より
オゼックスの効果
子供を対象としたマイコプラズマ肺炎への有効率(効果)は97%です。
(投与期間:9.8±2.9日)
オゼックスを飲んで2.3日もすれば熱は下がってきます。
また、オゼックスを飲む前に他の抗生物質を飲んでいた子供にも十分な効果が期待できます。
他の抗生物質を7日間服してからオゼックスに変更後の有効率(効果)
- 肺炎:100%
- 中耳炎:96.6%
オゼックスの抗菌効果は強く、肺炎・中耳炎・マイコプラズマ肺炎に著効します。
そのため、本来ならば他の抗生物質から使用すべき症状(病気)にオゼックスを使っている印象もあり、今度問題になってくる可能性が高いです。
オゼックスの飲み合わせ
オゼックスなどのニューキノロン系抗菌薬は、次のような成分を含むミネラルウォーター・食品(牛乳・ヨーグルトなど)・サプリ・薬と一緒に飲むと、吸収率が低下し効果が減弱します。
- カルシウム(Ca)
- マグネシウム(Mg)
- アルミニウム(Al)
- 鉄(Fe)
もし、上記の成分を含む薬などを飲んだ場合は、2時間程度空けてからオゼックスを飲みます。
Ca、Mg、Al、Feを含む薬の例
(飲み合わせ×)
薬の名前 | 主な治療目的 | 含む |
---|---|---|
酸化マグネシウム | 便秘 | Mg |
SM配合酸 | 胃の不快感 | Ca Mg |
インクレミンシロップ | 鉄欠乏性貧血 | Fe |
オゼックスの副作用
肺炎もしくは中耳炎の子供(1~15歳)を対象とした臨床試験の結果によると、副作用発現率は26.38%です。
クラリス・ジスロマックと同様に主な副作用は消化器症状です。
副作用 | 副作用頻度 |
---|---|
下痢 | 5.53% |
嘔吐 | 4.26% |
食欲不振 | 2.13% |
腹痛 | 2.13% |
ジスロマック VS クラリス 効果の比較
次の条件で有効性(効果)を比較した二重盲検比較試験によると、ジスロマックとクラリスの有効性(効果)に少しの優越が見られています。
対象:大人の肺炎患者 | |
ジスロマック錠250mg | 1日1回2錠を3日間服用 |
クラリス錠200mg | 1日2回14日間服用 |
臨床効果の有効率
- ジスロマック:98.3%
- クラリス:90.5%
オゼックス VS クラリス 効果の比較
次の条件で有効性(効果)を比較した臨床第三相試験によると、オゼックスとクラリスの有効性(効果)にも少しの優越が見られています。
対象:1歳以上15歳以下のマイコプラズマ肺炎の子供 | |
オゼックス | 1回6mg/kg・1日2回最長14日間服用 |
クラリス | 1回5mg/kg・1日2回最長14日間服用 |
臨床効果の有効率
- オゼックス:97%(残り3%は判定不能)
- クラリス:90%(残り10%は無効)
クラリスが全く効かなかった10%の子供は、すでに耐性菌ができていたのかもしれません。
まとめ
- 子供のマイコプラズマ肺炎に使われる主な抗生物質は、クラリス・ジスロマック・オゼックス・ミノマイシンであるが、ミノマイシンは副作用の面から子供には使いにくい
- 2000年くらいからマクロライド耐性マイコプラズマが増え、マイコプラズマ肺炎の治療に支障をきたし出している
- クラリス・ジスロマックは苦いため子供には不評
- クラリス・ジスロマックは酸性のモノと混ぜると、コーティングが剥がれて苦味がまともに出る(まずい!)
- オゼックスはカルシウム・マグネシウム・鉄を含む食品と薬の飲み合わせに注意
マイコプラズマ肺炎薬(抗生物質)のまとめ
クラリス | ジスロマック | オゼックス | |
---|---|---|---|
系統 | マクロライド系 | ニューキノロン系 | |
成分 | クラリスロマイシン | アジスロマイシン | トスフロキサシン |
飲み方 | 1日2回・10日間 | 1日1回・3日間 | 1日2回・7~14日間 |
効果 | マイコプラズマ肺炎 83.8% |
マイコプラズマ肺炎 100% |
マイコプラズマ肺炎 97% |
その他 | 耐性菌に注意 苦い |
苦い | 耐性菌にも効果あり Ca・Mg飲み合わせ注意 |
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