「お薬手帳を拒否してシールだけもらえば、10円~20円節約できる」というのは事実です。
薬代を節約したいという気持ちはわかります。
しかし、10円~20円節約と引き換えに、薬局から受けるサービスを自ら放棄することにもなります。
シールだけもらっても、その場では何の役にも立ちません。
お薬手帳は、薬局に行ったことがある方は、一度は作ったことがあると思います。
お薬手帳というアイテムがどのようなものなのか?
お薬手帳の価値とは?
一緒に考えてみましょう。
お薬手帳とは
お薬手帳には、以下のことが記載されています。
①患者さま個人の情報
お薬手帳を開けて、1枚目に記載欄があることが多いです。自身のことで医師・薬剤師に伝えたいことを記入します。
②患者さまの服用歴に関する情報(シール等)
お薬手帳の2枚目以降に、情報を書き込めるページが続いています。こちらへは、薬局の薬剤師がシール等を貼りつけることによって記入します。
①②を記入しておくことで、患者さまの情報が正しく、医師・薬剤師等に伝えることができます。
お薬手帳を拒否、もしくはシールのみの交付を受けた場合、これらの情報は薬剤師に確認されることはありません。
用法が守らないと効かない薬について
薬剤師が確認しているお薬手帳の内容
- 相互作用確認:薬を併用する上で、併用できない薬が処方されていないか
- 重複投与確認:同成分の薬が、重複して処方されていないか
- 服用歴確認 :今まで、どのような薬を服用してきたのか
- 副作用歴確認:副作用が起こったことのある薬が、処方されていないか
薬局では、薬剤師がお薬手帳に薬の情報を記入する(シールを貼り付ける)ときに、この4項目を主に確認しています。
薬の情報確認、情報に基づいた調剤、薬の説明に費用がかかるとご理解ください。その費用はたったの10円~20円です。
お薬手帳を拒否した場合、これらの情報は確認されることはありません。
薬局では「シールだけちょうだい!家で貼っておくから」と言われることもありますが、多くの薬局ではシールだけの発行はしていないと思います。
患者さま自身でシールを貼るだけでは、お薬手帳本来の機能を発揮することができないと考えるからです。
複数の薬を飲んだ時に、ひとつずつの薬では見られないような作用がでることがあります。
一緒に飲むと作用が強くなる薬の組み合わせ、弱くなる薬の組み合わせ等があります。
薬と薬だけではなく、薬と特定の食物との飲みあわせで作用の強弱がでることもあります
本来目的としていない作用のこと。
その日の体調によって、普段は現れないような症状がでることもあります。
副作用は、一般的に肝臓・腎臓の機能が低下している方、妊娠中の方、タバコ・アルコールを多量に飲む方に起こりやすいです
記載が面倒な問診票について
お薬手帳は有料?無料?
2016年調剤報酬改定
2014年4月~2016年3月までは、お薬手帳を持参すると20円の自己負担がありましたが、2016年4月~は、お薬手帳を持参すると40円自己負担が減る可能性があります。
お薬手帳本体を渡す行為は、保険としての費用はかかりませんが、お薬手帳本体のみを希望するときは、自費でお薬手帳本体代を請求する薬局もあります。
「お薬手帳は有料?無料?」の項目のみ旧記事の扱いといたします。
2016年調剤報酬対応版「お薬手帳について」
お薬手帳の保険適応後の費用と計算方法
- 1割負担の方:0円~10円
- 3割負担の方:20円~30円
厳密に自己負担金を計算すると、いわゆるお薬手帳代はこのようになります。
「~」を理解するには自己負担金の計算の仕方を理解する必要があります。どのように薬代が計算されているのか説明します。
お薬手帳の点数は7点です。
- 健康保険は1点10円です
- 自己負担金は10円単位です
- 例えば、3割負担の方は1点3円ですので、10円以下の端数がでることがあります
- 10円以下の端数は四捨五入します
- そのときに0円~10円の誤差が生じます
3割負担の方の表(お薬手帳加算前の保険点数が101点~110点までの例示)
保険点数 (点) |
3割負担金額 (円) |
自己負担金 (円) |
差額 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
加算前 | 加算後 | 加算前 | 加算後 | 加算前 | 加算後 | – |
101 | 108 | ¥303 | ¥324 | ¥300 | ¥320 | ¥20 |
102 | 109 | ¥306 | ¥327 | ¥310 | ¥330 | ¥20 |
103 | 110 | ¥309 | ¥330 | ¥310 | ¥330 | ¥20 |
104 | 111 | ¥312 | ¥333 | ¥310 | ¥330 | ¥20 |
105 | 112 | ¥315 | ¥336 | ¥320 | ¥340 | ¥20 |
106 | 113 | ¥318 | ¥339 | ¥320 | ¥340 | ¥20 |
107 | 114 | ¥321 | ¥342 | ¥320 | ¥340 | ¥20 |
108 | 115 | ¥324 | ¥345 | ¥320 | ¥350 | ¥30 |
109 | 116 | ¥327 | ¥348 | ¥330 | ¥350 | ¥20 |
110 | 117 | ¥330 | ¥351 | ¥330 | ¥350 | ¥20 |
お薬手帳加算前の保険点数の一ケタ目が「8」のときのみ、四捨五入の関係で30円の自己負担となります。
10%の確率で、お薬手帳の自己負担金が20円負担ではなく、30円負担です。
1割負担の方の表(お薬手帳加算前の保険点数が101点~110点までの例示)
保険点数 (点) |
1割負担金額 (円) |
自己負担金 (円) |
差額 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
加算前 | 加算後 | 加算前 | 加算後 | 加算前 | 加算後 | – |
101 | 108 | ¥101 | ¥108 | ¥100 | ¥110 | ¥10 |
102 | 109 | ¥102 | ¥109 | ¥100 | ¥110 | ¥10 |
103 | 110 | ¥103 | ¥110 | ¥100 | ¥110 | ¥10 |
104 | 111 | ¥104 | ¥111 | ¥100 | ¥110 | ¥10 |
105 | 112 | ¥105 | ¥112 | ¥110 | ¥110 | ¥0 |
106 | 113 | ¥106 | ¥113 | ¥110 | ¥110 | ¥0 |
107 | 114 | ¥107 | ¥114 | ¥110 | ¥110 | ¥0 |
108 | 115 | ¥108 | ¥115 | ¥110 | ¥120 | ¥10 |
109 | 116 | ¥109 | ¥116 | ¥110 | ¥120 | ¥10 |
110 | 117 | ¥110 | ¥117 | ¥110 | ¥120 | ¥10 |
お薬手帳加算前の保険点数の一ケタ目が「5.6.7」の場合のみ、四捨五入の関係で自己負担金が発生しません。
30%の確率でお薬手帳の自己負担金が0円となります。
薬局の薬代は医療費控除・高額療養費の対象です
お薬手帳の点数の歴史
2010年(平成22年)当時は、薬の説明(薬剤服用歴指導料)と、お薬手帳(薬剤情報提供料)が別の点数として算定していました。
2012年(平成24年)の調剤報酬改定時に、「薬剤師がお薬手帳を利用して併用薬等を確認し、薬の説明等を行うこと」が標準化されることになりました(お薬手帳と服薬指導の統合)。
しかし、お薬手帳を持参しなかった患者さまへは、シールを渡して、次回持参した手帳を確認すればよいという例外規定がもうけられました。
その例外規定の解釈を誤り、渡したシールを手帳に貼って、次回は持ってきてもらうように促さない薬局がみられるようになりました(お薬手帳確認の先送り)。
それでは、お薬手帳の存在自体があやふやになります。
厚生労働省はそのことを問題視しました。2014年(平成28年)の改定で、再びお薬手帳が、ある意味別算定となり、同じ指導料名で2段階の点数が設定されることになりました。
医療費控除はネットを使えば簡単にできます
お薬手帳は服用薬を正確に伝達するためのアイテム
お薬手帳があると、患者さまもご自身の服用薬について、正しく簡単に伝えることができます。
薬局で「何の薬をお飲みですか?」と聞かれても「ん~?・・・」と悩むこともなくなります。薬剤師は、併用薬の情報がなければ、飲み合わせ等について何もお答えすることができません。
そのときは、とても残念で、もったいない気持ちになってしまします。お薬手帳を拒否されても、何らかの形で併用薬を教えて下さい。
薬剤師は薬の専門家です。
一部のメディアで「お薬手帳を拒否すれば20円安くなるから断ろう」という変なPRがありますが、お薬手帳を拒否するデメリットが伝えられていません。
自身の薬を正確に伝えられない方は、たった20円の利益と引き換えに、併用・重複等のリスクを負うことになります。
薬代が気になる方は、お薬手帳の有無のことより、処方箋の受付時間に注意した方がよっぽど薬代が節約できます。
受付時間により、3割負担で120円以上の差が生じることがあります
正しいお薬手帳の使い方
お薬手帳は1冊にまとめてください。
診療科目ごとに、お薬手帳を作っている(作らなければならないと思っている)方がいますが、その方法はオススメしません。なぜなら、お薬手帳ごとに薬の情報が途切れてしまい、結局は薬の併用等を確認できなくなるからです。
お薬手帳を忘れない工夫
100円均一等では、お薬手帳フォルダが売っています。このようなツールを利用すれば、お薬手帳、診察券、保険証をキレイに保管することができます。かなりオススメアイテムです。
薬局では、無料もしくは有料で譲ってくれるところもありますので、一度たずねてみてはいかがでしょうか。
入院してしまったときも、お薬手帳は継続して使えます
まとめ
- お薬手帳の拒否・シールのみの交付は、利益以上にデメリットが多い
- そのデメリットは、なぜかメディアは伝えない
- お薬手帳は、服用薬を正確に医師・薬剤師に伝えるためのアイテム
- お薬手帳を拒否して得られる利益は、たったの10円~20円
- 薬代を気にするのであれれば、お薬手帳よりも処方箋受付時間に気を付けた方がいい
お一人でも多くの方が、お薬手帳等を利用して、ご自身の薬を正確に薬剤師に伝えてほしいと思います。そのことにより、医薬分業というシステムが初めて機能を発揮します。
いろいろなバッシングを受ける「薬局」ですが、使い方次第でよいパートナーになると思います。
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