- プレゼン前、テスト前、デート前など、ストレスのかかる出来事の前になると、なぜか下痢や便秘をする方
- 特に何もないのに日常的に(慢性的に)下痢や便秘を繰り返す方
このような体質の方は、緊張に弱い、メンタルが弱い、胃腸が弱い体質と説明される場合が多かったです。
しかし、それは過敏性腸症候群(IBS)かもしれません。
過敏性腸症候群は、字のごとく腸が過敏に反応してさまざまな症状を引き起こす病気です。
(以下、過敏性腸症候群をIBSと略記します)
IBSは主に3種類(+1)あり、症状にあった薬を使い分けます。
- 下痢型IBS
主に下痢症状を起こす
イリボー、セレキノン、ロペミン、整腸剤 - 便秘型IBS
主に便秘症状を起こす
リンゼス、セレキノン、便秘薬、整腸剤 - 混合型IBS
下痢や便秘の両方を起こす(繰り返す)
コロネル(ポリフル)、セレキノン、整腸剤 - (それ以外のIBS)
今回は下痢型IBS薬イリボーについて解説します。
が、下痢型IBSから簡単に解説します。
下痢型IBSの原因
下痢は食べすぎた後や飲みすぎた後などに日常的に起こりますが、別の病気が隠れている場合もあります。
- 感染性腸炎(ノロウィルス、ノロウィルス)
- 潰瘍性腸炎
- クローン病
- 大腸がん など
これらの病気は問診、血液検査、大腸内視鏡検査、病理組織学的検査で何らかの異常が腸に見つかりますが、
下痢型IBSでは腸に異常らしきものが見つからないにもかかわらず、慢性的に下痢を繰り返します。
原因1:大腸知覚過敏
知覚過敏と聞くと(歯の)痛みなどを想像するかもしれませんね。
ここでいう大腸知覚過敏とは、食べ物や消化物が胃腸に入ってきたときに起こる刺激が過敏反応することをいいます。
腸には知覚がありませんが、受けた刺激は神経や免疫系を通じて脳に伝達されます。
刺激がおおげさに脳に伝わったり、脳が受けた伝達をおおげさに腸に返したりすると、異常な腸の運動が起こります。
つまり、下痢型IBSは腸だけの問題ではなく脳にも問題があるということです。
この腸と脳の密接な関係は脳腸相関と呼ばれています。
脳腸相関に異常が起こる主な原因はストレスです。
脳腸相関の異常を正す薬が、下痢型IBS薬イリボーです。
原因2:腸運動機能の異常
下痢型IBSでは、ストレスがかかったときに腸運動の異常な亢進が起こり、下痢を引き起こします。
また、ストレスがなくなった後でも腸運動の亢進は持続することもわかっています。
原因3:心理的不安
下痢型IBSが続くと、また下痢になるのではないかという不安が付きまといます。
また、不安やうつが原因で下痢型IBSを起こす場合もあります。
不安が付きまとうと、大腸知覚過敏の亢進→大腸運動機能の異常の連鎖が起こり、下痢型IBSは悪化していきます。
そのため、下痢型IBSではイリボーと抗不安薬や抗うつ薬との併用も多いです。
下痢型IBSの症状
下痢型IBSは下痢にプラスして次のような症状を起こします。
- 腹痛
- おなかのはり、違和感
- 血便
- 吐き気
- うつ
- 不安
(ただし、上記の症状が必ず出るわけではない)
これらの症状は、排便によって改善するのも下痢型IBSの特徴です。
下痢型IBS薬イリボー
イリボーはラモセトロンを主成分とする下痢型IBS薬です。
イリボーは2.5μgの錠剤、OD錠(左下)、イリボー5μgの錠剤、OD錠(右下)の4種類です。
イリボー発売当時(2008年)は男性専用の下痢型IBS薬でしたが、2015年からは女性も使用できるようになり、総合的な下痢型IBS薬となりました。
しかし、女性がイリボーを使う場合、便秘などの副作用が起こる頻度が男性と比べて高いです。
(詳細後述「イリボーの副作用」)
そのため、女性にはイリボー2.5μg、男性にはイリボー5μgが使われる傾向にあります。
『リンゼスとアミティーザ 5つの違い なるほど!新型便秘薬はこう違うのか』
イリボーの作用機序
先述のとおり、腸と脳は密接につながっていて、脳がストレスを感じると腸にも影響を与えます。(脳腸相関)
神経と神経の間で情報をやり取りする物質を神経伝達物質といいます。
下痢型IBSの脳腸相関においては、セロトニン(神経伝達物質)が重要なキーワードです。
セロトニンは脳に多いイメージがあるかもしれませんが、ほとんどは腸に存在します。
セロトニンの働きをブロックすれば、腸で起こる異常な亢進は遮断されます。
イリボーは腸にあるセロトニン受容体をブロックしてセロトニンの働きを弱め、IBSの下痢腹痛症状を改善します。
【セロトニン5-HT3受容体遮断作用】
イリボーの飲み方(用法用量)
- 成人男性
イリボー5μgを1日1回服用
(1日最高量は10μgまで) - 成人女性
イリボー2.5μgを1日1回服用
(1日最高量は5μgまで)
イリボーは飲むタイミングの指定はありませんが、昼や夕食後ではなく朝食後の服用が多いです。
その理由は日中(活動中)の下痢型IBS症状をより抑えるためです。
また、イリボーは効きすぎると便秘や腹痛を起こします。
3日以上便が出ないときは、医師に連絡して減量・中止などが必要です。
女性は男性に比べると便秘や便が硬くなりやすいです。
(詳細後述「イリボーの副作用」)
イリボーの効果
下痢型IBSは直接生命がおびやかされる病気ではありませんが、QOL(生活の質)が低下し外出がつらくなってきます。
下痢型IBS薬は、本人が効いたと感じる主観的な効果が重要です。
イリボーの主観的効果の定義
自己申告に基づく週ごとの5段階評価で、1カ月のうち2週以上でスコアが0もしくは1であった方の割合
- 0=症状がなくなった
- 1=かなり改善した
- 2=やや改善した
- 3=変わらなかった
- 4=悪くなった
男性はイリボー5μg、女性はイリボー2.5μgを1日1回朝食前に服用したときの全般改善効果(主観的効果)
イリボーインタビューフォームを参考に作成
男性
女性
男性はイリボー5μg、女性はイリボー2.5μgを1日1回朝食前に服用したときの便通状態改善効果(主観的効果)
イリボーインタビューフォームを参考に作成
男性
女性
男性女性ともに、イリボーは下痢を含めて下痢型IBSの症状を改善する効果があることがわかります。
さらに、プラセボ(偽薬)服用でもある程度下痢型IBSが改善することから、下痢型IBSは気持ちの(神経的な)問題でもあることがうかがえます。
7カ月間イリボーを服用した長期投与試験における全般改善効果は、男性で71.0%、女性で68.7%です。
その結果から、イリボーは習慣性が少なく、長期服用しても安定して効果を発揮すると考えられます。
過敏性腸症候群には整腸剤の併用も有効です
イリボーの副作用 (女性は便秘に注意)
先述の「イリボーの飲み方(用法用量)」にあるとおり、男性はイリボー5μg、女性は2.5μgが標準量です。
なぜなら、女性はイリボーの効果が強く出やすく、便秘、硬便(硬い便になる)の副作用を起こしやすいからです。
副作用 | 副作用頻度 (男性) |
副作用頻度 (女性) |
---|---|---|
副作用全般 | 23.8% | 39.9% |
便秘 | 5% | 14.3% |
硬便 | 5.4% | 22% |
(イリボー国内臨床試験の副作用情報より)
イリボーと併用薬(飲みあわせ)
イリボーは抗不安薬、下痢止め、抗うつ薬との併用も多いです。
しかし、下痢止めと抗うつ薬の中にはイリボーと飲み合わせの良くない種類の薬もあります。
- ロペミン(下痢止め)
- ルボックス(抗うつ薬)
これらの薬とイリボーを併用すると、イリボーが効きすぎて便秘・硬便の副作用が増強されることがわかっています。
まとめ
- 下痢型IBSでは腸に異常らしきもの見つからないにもかかわらず、下痢・腹痛などを繰り返す
- 下痢型IBSは腸だけの問題ではなく脳にも問題がある
- イリボーは腸にあるセロトニン受容体をブロックしてセロトニンの働きを弱め、IBSの下痢腹痛症状を改善する
- 下痢型IBSの治療では、本人が効いたと感じる主観的な効果が重要
- イリボーは習慣性が少なく、長期服用しても安定して効果を発揮する
- 女性はイリボーの効果が強く出やすく、便秘、硬便(硬い便になる)の副作用を起こしやすい(女性は男性の約3~4倍)
- そのため、男性はイリボー5μg、女性は2.5μgが標準量
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