アパートを退去するとき、退去費用(原状回復費用)でトラブルになってしまうときがあります。
- 賃貸アパートに10年住んだら、30万円退去費用請求されちゃったよ
- 賃貸アパートに住んだのは1年だったから、5万円の退去費用で済んだよ
賃貸アパートの入居期間が長いと退去費用が高くなり、短いと退去費用が安くなると考えている方が多いようですが、最近では退去費用と入居期間の関連性は低くなっています。
なぜなら、賃貸アパートの退去時に高額な退去費用(原状回復費用)を請求させられるというトラブルが頻発しました。
トラブルを未然に防ぐために、数年前に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発行したからです。
国土交通省のガイドラインを受けて、東京都でも退去トラブル防止のための「東京ルール」を施行しました。
賃貸アパート退去時の原状回復とは
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、賃貸アパート・マンションの原状回復を、次のように定義しています。
賃借人(入居者)の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他、通常の使用を超えるような使用による損耗(そんもう)・毀損(きそん)を復旧すること
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より
どれだけ丁寧に部屋を使用していたとしても、部屋の設備は自然劣化(経年劣化)していきます。
自然劣化(経年劣化)の原状回復費用は、退去時の退去費用にしないというのが基本的な考え方です。
原状回復とは「賃貸アパート・マンションを借りたときの元の姿(現状)に戻すことで、その費用は退去時に請求する」と説明する大家や管理会社もいますが、それは古い考え方で、今は一般的ではありません。
この古い考え方から脱却できない限り、入居者と大家の退去トラブルは解消しません。
東京ルールは退去トラブル撲滅のため施行
国土交通省のガイドラインを受けて、東京都では「賃貸住宅紛争防止条例」が施行されました。
原状回復をめぐるトラブルとガイドライン、賃貸住宅紛争防止条例などの原状回復に関する考え方は東京ルールとも呼ばれています。
東京ルールと呼ばれるだけあって、東京ルールは東京都限定のルールでした。
しかし、東京ルールが施行されてから10年以上たった現在では、東京ルールが賃貸アパートの退去費用(原状回復費用)を計算するときの基本的な考え方になりつつあります。
善管注意義務
原状回復に関わる東京ルールを解説する前に、善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)を説明します。
善管注意義務とは、入居者は借りた部屋を善良な管理者として、注意を払って使用しなくてはならないという取り決めのことです。
日常生活では、賃貸アパートの部屋を善良な管理者として、次のように管理を行わなくてはなりません。
- 通常の掃除
- 退去時の掃除
- 通常の掃除で取れないカビなどが発生した場合の報告
- エアコン、風呂水などによる水漏れの報告
- 結露の発生時の報告
- 飲み物をこぼしたなどによるシミなどの発生の報告
- 設備が破損したときの報告など
これらの掃除や報告を怠ったことが原因で被害が拡大するとき、善管注意義務違反としてその分の費用を退去時清算します。
善管注意義務は意外と細かいところをついてきますので、退去トラブルにならないようにしっかりと賃貸アパートの部屋の管理を行います。
退去費用(原状回復費用)と東京ルール
自然劣化(経年劣化)とは
気をつけて部屋を使用していたとしても、部屋の設備は自然劣化(経年劣化)します。
例えば、壁紙、フローリング、ユニットバス、ガスコンロ、エアコンなどです。
壁紙を例に、東京ルールの設備の自然劣化の考え方を解説します。
1度新品に交換すると、通常使用で退去のたびに適切なメンテナンスが行われた場合、壁紙は6年~10年程度は使えます。
(ただし壁紙のグレードにもよる)
しかし、壁紙の耐用年数は6年のため、壁紙の価値は会計上6年の使用でなくなります。
例えば、3年使用した壁紙の部屋に3年以上住んだ場合、6年以上壁紙を使用していますので、理論上は壁紙の価値はありません。
ただし、壁紙は先述のとおり6年以上使えますので、壁紙に通常の使用を超える摩耗があるときは、その分の原状回復費用が退去費用になるのです。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」改変
賃借人→入居者
退去費用(原状回復費用)の負担割合の計算例
- 壁紙の交換費用は1m2あたり1000円
- 入居時の壁紙の状態は良好で、摩耗は30%と推測
- 4年で退去
- 退去時に明らかな壁紙の破れがある
壁紙1m2あたりの原状回復費用
=交換費用×(100%-摩耗)×(耐用年数-入居年数)/耐用年数
=1000円×(100%-30%)×(6年-4年)/6年
=233円
退去費用(原状回復費用)は、233円×交換枚数です。
全ての壁紙が交換の必要があったとしても、通常の使用を超える摩耗があった枚数のみ、入居者が負担するのが東京ルールです。
※今回示した計算式はあくまで計算例です。強制力はありません。
退去トラブルになりやすい原状回復費用
エアコンの原状回復費用
通常の使用における故障の修理や、自然劣化(経年劣化)による交換費用は大家負担でしたね。
ただし、エアコンの掃除などの手入れ不足による故障の費用は、善管注意義務違反で入居者の負担です。
エアコンは、夏、冬は2週間に1回程度の掃除が必要です。
壁紙の掃除と交換費用
通常の生活で起こりえる壁紙の摩耗とは次のとおりです。
- 小さな傷、汚れ
- 押しピン跡
- 冷蔵庫の後ろの跡など
これらが原因による壁紙の掃除、交換にかかる費用は大家持ちです。
反対に、退去時に原状回復費用を負担しなくてはならなくなる通常の生活での摩耗を超える使用は次のとおりです。
- 通常の掃除では取れない汚れ
- クーラーの水漏れ跡
- タバコによるヤニ跡(変色)と臭い
- 犬猫などのペットによる傷痕と臭い
- クギ穴、ネジ穴の跡
- 落書き
- 大家の同意を得ずに勝手につけた照明器具の跡
タバコによるヤニ跡(変色)と臭いによる退去トラブルは起こりやすいです。
なぜなら、喫煙者と禁煙者のヤニと臭いの感じ方が違うからです。
フローリングの原状回復費用
日常生活で起こる小さな傷は大家の負担です。
目視でわかる大きな傷、へこみ、色あせは退去時に清算します。
- フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだなどによるもの)
- 冷蔵庫下のサビ跡
たたみの原状回復費用
最近の賃貸アパートはフローリング化が進み、たたみを使用している賃貸アパートは減っています。
たたみは、普通に生活していても5.6年使用すれば、ケバケバになってきて結構ぼろぼろになります。
そのたびに表面のみ交換する(表替え)のが通常です。
しかし、たたみは日焼けなどの影響を受けやすく、新品と使用品の周りとの色合いが合わないことが多いです。
そのため、退去のたびに全面の表替えも少なくありません。
全面の表替えの費用は大家が持ちです。
(たたみは消耗品扱いのため、フローリング化が進んでいます)
たたみに、あきらかな傷や汚れがある場合は、1枚単位で入居者の退去費用です。
あきらかな傷や汚れがあったとしても、そのたたみ以外は大家持ちです。
キッチン、ユニットバス、洗面台などの掃除と交換費用
キッチン、ユニットバス、洗面台の破損は、
自然劣化(経年劣化)の考え方に基づいて入居者が交換の費用を負担します。
キッチン、ユニットバス、洗面台は、日常の掃除を怠らない限り、退去後の通常のクリーニング特約の範囲内で済むのがほとんどです。
退去費用(鍵交換)
鍵はマスターキーを紛失しない限りは、鍵交換の費用は大家が負担します。
ただし、アパートの契約書に「鍵交換の特約」がある場合は、入居者の費用負担1万円~1.5万円です。
最近では、「鍵交換の特約」が増えてきました。
まとめ
- 最近では、入居者が支払う退去費用と入居期間の関連性は低くなっている
- その理由は、国土交通省のガイドラインを受けて、東京都では「東京ルール」が施行され、東京ルールが全国の賃貸アパートの退去費用(原状回復費用)の計算のルールになりつつあるから
- 東京ルールでは、通常の使用を超える摩耗があるときのみ、その分の原状回復費用を退去費用として入居者が負担する
- 東京ルールは全国に広がりつつあるが、退去トラブルは絶えない
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