認知症のタイプは何種類か確認されており、主なものは次の3種類です。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
認知症の中ではアルツハイマー型認知症が最も多く、半分の割合を占めています。
そのため、認知症とはアルツハイマー型認知症を指している場合が多いです。
そこで今回は、アルツハイマー型認知症の原因と中核症状。
家族や介護者を悩ませる周辺症状(行動症状と心理症状)について解説します。
アルツハイマー型認知症の原因 アミロイド仮説
アルツハイマー型認知症は、脳内でアミロイドβと呼ばれる特殊なタンパク質の増加が原因で発症するといわれています(アミロイド仮説)。
アミロイドβは、アルツハイマー型認知症が発病する20年くらい前から、少しずつたまっていっていると考えられています。
アミロイドβは少量では問題になりませんが、増殖してくると脳が小さくなっていきます。
脳の短期記憶を主に扱う海馬と呼ばれる部分からが小さくなります。
そのため、アルツハイマー型認知症は「少し前の出来事が記憶できない」という物忘れ症状が最初に起こります。
また、アルツハイマー型認知症になると、神経と神経で連絡を取り合う物質(神経伝達物質)の濃度が低くなり、記憶力の低下を筆頭にさまざまな中核症状を引き起こしていきます。
アルツハイマー型認知症:症状の進行の特徴
アルツハイマー型認知症は、40歳代の方でもいつのまにか発症している場合があり、ゆっくりと進行していくのが特徴です。
一番最初に中核症状と呼ばれる症状から始まり、中核症状が原因で周辺症状(行動症状・心理症状)が出てきます。
人によって認知症の進み方や症状はさまざまですが、放置すれば確実に症状は進行していき、自然に治りません。
認知症の進行 | 軽度 | 中等度 | 高度 |
---|---|---|---|
最近の記憶 | たまに忘れる | 記憶できない | 全く記憶できない |
昔の記憶 | 覚えている | あいまい | 不正確 |
時間の認識 | ややあいまい | あいまい | 不正確 |
場所の認識 | わかる | あいまい | 不正確 |
人の認識 | わかる | 少しあいまい | あいまい~不正確 |
日常会話 | できる | 違和感がある | やや困難 |
記憶が必要な会話 | 違和感がある | やや困難 | 困難 |
また、アルツハイマー型認知症の進行のスピードと症状は、発症した年齢や環境の影響を受け個人差があります。
一般的には、発症年齢が若いほど進行は速いです。
アルツハイマー型認知症の中核症状
中核症状とは、アルツハイマー型認知症の中心的な症状を指します。
中核症状1:記憶力の低下
記憶力の低下は、物忘れとして現れます。
物忘れ(記憶力の低下)は、アルツハイマー型認知症の初期から起こり、時間の経過とともに悪化する中核症状です。
物忘れは健康な方でも日常的に起こり、たいていは物忘れのひどい人で済まされますが、認知症の方と物忘れのひどい人では、物忘れの仕方に違いがあります。
- 物忘れのひどい人の物忘れは断片的な物忘れで、記憶の漏れ・記憶違いとも受け止められます。
- 認知症の方の物忘れは全体的な物忘れで、記憶そのものがごっそり抜けています。
「あれ」「それ」「これ」という言葉が増えてきて、相手が内容を理解できなくなり、自分が伝えようとしている内容がうまく伝わらなくなります。
記憶力の低下は、判断力の低下、見当識(けんとうしき)の低下という中核症状へつながります。
中核症状2:判断力の低下
物忘れがひどくなると、自分で答えを出す速度が遅くなります。
また、2つ以上の同時作業も苦手となり、どちらか一方の作業に集中し、もうひとつの作業は失敗するようになります。
中核症状が進行してくると、両方の作業に失敗します。
中核症状3:見当識の低下
見当識とは、現在の年月や時刻、自分が居る場所など、今の状況を把握する能力です。
見当識が低下すると、次のようなことがわからなくなります。
- 今、どこにいるのか
- 今日は、何年何月何日何曜日なのか
- 今が朝・昼・夕のいつなのか
- 今、話している人は誰なのか
時間や季節に対しても無頓着になるため、待ち合わせ時間に合わせて準備ができなくなります。
その他の中核症状の例
- 同じ話や質問をくり返す
- 物をしまった場所が思い出せない
- 用法通り、薬を飲めない
- 家とは、反対方向へ帰る(道に迷う)
中核症状が原因で周辺症状へ発展
中核症状の主症状である記憶力の低下は、すべてのアルツハイマー型認知症の方に起こる症状です。
記憶力が低下してると、他人とのコミュニケーションがうまく行きません。
しかし、認知症の方も健康な方と同じで、他人とうまくコミュニケーションを取りたいと考えています。
そのギャップが周辺症状を引き起こします。
周辺症状こそが家族と介護者を困らせる原因ですが、適切な介護や快適な住環境の提供で、周辺症状の進行抑制や消失も可能です。
アルツハイマー型認知症の周辺症状1 行動症状
アルツハイマー型認知症の周辺症状のひとつ行動症状とは、中核症状にともなって現れる行動上の症状のをいいます。
周辺症状(行動症状)の例
- 攻撃(暴力)
- 異常音(変な音を出す)
- 興奮
- あせり
- 収集
- 不平・不満
- 徘徊(部屋・家外)
- 露出・セクハラ
アルツハイマー型認知症の心理症状2 心理症状
アルツハイマー型認知症の周辺症状のひとつ心理症状とは、中核症状に伴って表れる心理上の症状をいいます。
周辺症状(心理症状)の例
- 無気力(物事に興味がなくなる)
- 妄想(物盗られ妄想)
- 不安
- 自発性の低下(やる気の減退)
- 付きまとい
- うつ症状
- 幻覚(幻視)
- 不眠
- 繰り返し行動(ドアの開け閉めなど)
自発性の低下、無気力、うつ症状は、軽度のアルツハイマー型認知症から起こりやすく、
特に無気力はアルツハイマー型認知症の70%以上の方で起こり、最も頻度の高い心理症状と考えられています。
次に頻度が高いのは妄想です。
妄想は、アルツハイマー型認知症の30%程度の方に見られます。
妄想のタイプも、被害妄想、嫉妬妄想、関係妄想、追跡妄想…などいろいろありますが、
アルツハイマー型認知症で多い妄想は物盗られ妄想です。
幻覚も20%程度の方にみられますが、幻覚の中では幻視が幻聴よりも発症頻度が高いです。
幻視は、アルツハイマー型認知症よりレビー小体型認知症の方が頻度が高く、半数以上の方にみられる特徴的な症状です。
物盗られ妄想のメカニズム
アルツハイマー型認知症では、記憶力が低下しているため物をどこにしまったのか覚えてなかったり、物をしまったことすら忘れていたりします。
そのため
- 物をしまったはず
- そこにしまった物がない
- だれかが盗っていった
といった感じで、物盗られ妄想の被害妄想が高頻度に出現します。
まとめ
- アルツハイマー型認知症になると、神経の働きを促す物質(神経伝達物質)の濃度が低くなり、記憶力の低下を筆頭にさまざまな中核症状を引き起こす
- アルツハイマー型認知症の中核症状は、記憶力の低下、見当識の低下、判断力の低下
- 中核症状が原因で周辺症状(行動症状・心理症状)が発症する
- アルツハイマー型認知症の主な行動症状は、攻撃・暴力
- アルツハイマー型認知症の主な心理症状は、無気力、うつ、物盗られ妄想
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