ドグマチールは昔からある薬です。
もともとは胃薬でしたが、使っているあいだに統合失調症(昔でいう精神分裂症)・うつに効果があることがわかりました。
現在では、ドグマチールは胃薬のみの効果を期待して使用されることは少なく、
- 抗うつ剤との併用
- うつによる胃の症状(吐き気など)の緩和
に使われています。
なぜなら、胃症状の緩和には効果が確かな胃薬が他にあり、うつ治療には効果が十分な抗うつ剤が他にあるからです。
ドグマチール(スルピリド)の用法用量
左からドグマチール錠50mg、100mg、200mg
ドグマチールの主成分はスルピリドです。
ドグマチールは50mg、100mg、200mgの3種類がありますが、100mg、200mgは胃薬としては使えません。
ドグマチール(スルピリド)は、何の効果を期待するかで用法用量の違いがあるからです。
- 少用量→胃薬
- 中用量→抗うつ剤
- 高用量→統合失調症薬
1日用量 | 1日最大用量 | |
---|---|---|
胃薬 (胃潰瘍・十二指腸潰瘍) |
150mg (50mg×3回) |
– |
うつ病・うつ状態 | 150mg~300mg | 600mg |
統合失調症 | 300mg~600mg | 1200mg |
胃薬ドグマチール(スルピリド)
ドグマチール(スルピリド)は胃への作用は強くないため、(本格的な)胃潰瘍・十二指腸潰瘍に使うことはほとんどありません。
しかし、ドグマチール(スルピリド)には中用量で抗うつ効果も併せ持ちます。
他の抗うつ剤との併用やうつによる胃の症状(吐き気など)の緩和に使うことが多いです。
(後述:ドグマチールがうつに効果がある理由)
ドグマチール(スルピリド)が胃に効果がある理由 【作用機序1】
ドグマチール(スルピリド)は、脳の視床下部交感神経中枢に作用して交感神経を抑制し、胃薬として効果を発揮します。【作用機序1】
脳の交感神経の働きが抑えられると、副交感神経が優勢になります。
副交感神経はリラックスに関係する神経ですので、
胃への血流が増えたり胃の運動能力が改善して、吐き気、食欲不振、腹部膨満感、腹部不快感、腹痛、胸焼け・・・など胃症状全般が改善します。
(ただし太る副作用もある)
統合失調症薬ドグマチール(スルピリド)
ドグマチール(スルピリド)は胃薬として使う量より多めの量を服用すると、統合失調症に効果があることで知られています。
統合失調症とは
あまり効きなれない言葉だと思います。
統合失調症の根本的な原因は不明ですが、
遺伝、ストレスなどが原因で「脳内ドーパミン(ドパミン)の過剰分泌が起こっている」というドパミン仮説が有力です。
ドグマチールは併用薬して効果を期待
ドグマチール(スルピリド)の脳内ドパミンD2受容体遮断作用は弱いです。
(後述:ドグマチールが統合失調症に効果がある理由)
そのため、統合失調症の治療に使う場合は高用量(300mg~)のドグマチール(スルピリド)が必要です。
しかし、ドグマチール(スルピリド)を増量すれば副作用が心配になるため、統合失調症の治療に単独でドグマチール(スルピリド)を使うケースはまれです。
(プラスアルファの併用薬として期待)
なぜなら、もっと効果のある薬があるからです。
代表的な統合失調症薬(抗精神病薬)
- リスパダール(リスペリドン)
- ジプレキサ(オランザピン)
- セロクエル(クエチアピン)
- エビリファイ(アリピプラゾール)
ドグマチール(スルピリド)が統合失調症に効果がある理由【作用機序2】
統合失調症は、脳内ドーパミンの過剰分泌が原因と考えられています。
ドグマチール(スルピリド)は、脳にあるドパミンD2受容体をブロックして効果を発揮します。【抗ドパミン作用:作用機序2】
(ドーパミンとドパミンD2受容の結合量が減るため、ドーパミンは効果を発揮できない)
ドグマチール(スルピリド)は統合失調症の陰性症状にはあまり効果を期待できず、どちらかといえば陽性症状に効果を発揮します。
- 陽性症状:
幻覚や妄想など、目立つ症状 - 陰性症状:
自閉(引きこもり)や感情の低下など、目立ちにくい症状
抗うつ剤ドグマチール(スルピリド)
うつ症状によく使われてるSSRI、SNRI、NaSSA(ナッサ)と呼ばれるカテゴリーの抗うつ剤は、2週間くらいしてからようやく効果が出てきます。
(ただし、効果の実感は個人差が大きい)
一方、ドグマチール(スルピリド)は抗うつ剤としては効果は強くありませんが、効果が実感できる期間が比較的短く即効性が期待できます。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は脳内のセロトニン(後述:ドグマチールがうつに効果がある理由【作用機序】)を増やして、うつ症状を緩和します。
- パキシル(パロキセチン)
- ジェイゾロフト(セルトラリン)
- レクサプロ(エスシタロプラム)
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、脳内のセロトニンとノルアドレナリン(後述:ドグマチールがうつに効果がある理由【作用機序】)を増やしてうつ症状を改善します。
- サインバルタ(デュロキセチン)
- イフェクサー(ベンラファキシン塩酸塩)
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤)もSNRIと同様にセロトニンとノルアドレナリンを増やしてうつ症状を改善します。
SNRIより強い抗うつ効果が期待できます。
- リフレックス(ミルタザピン)
- レメロン(ミルタザピン)
ドグマチール(スルピリド)がうつに効果がある理由
ドグマチール(スルピリド)の抗うつ効果も抗ドパミン作用によると考えられていますが、ドグマチール(スルピリド)の抗うつ効果には矛盾があります。
(矛盾は仮説で説明されているが、パッとしない)
抗うつ効果を得るためにはドーパミンは増えるべきだからです。
先述のとおり抗うつ剤はドーパミンなどのモノアミンを増やして抗うつ効果を発揮します。
モノアミンをブロックして抗うつ効果を得るドグマチール(スルピリド)は特殊です。
モノアミンとは
ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなど、神経伝達物質の総称
- ドーパミンは、快楽・喜びの感情に関係
- ノルアドレナリンは、意欲・やる気の感情に関係
- セロトニンは、不安の感情に関係
ドグマチール(スルピリド)の離脱症状
うつ症状によく使われてる抗うつ剤SSRI、SNRI、NaSSAを急に止めると離脱症状が起こる場合があります。
離脱症状とは、睡眠薬が体の中に入ってこなくなって起こる禁断症状のことです。
離脱症状
- 不眠
- 緊張(強迫観念)
- 不安
- 吐き気
- めまい
- 震えなど
しかし、ドグマチール(スルピリド)には離脱症状はほとんどありません。
ドグマチール(スルピリド)は、依存を形成するほど神経系に作用する強くないからです。
ただし、ドグマチール(スルピリド)は抗うつ剤(SSRI、SNRI、NaSSA)との併用が多く、ドグマチール(スルピリド)と抗うつ剤の減量中に離脱症状が起こることは十分に考えられます。
まとめ
- ドグマチール(スルピリド)には、3つの顔がある(胃薬、抗うつ剤、統合失調症薬)
- ただし現在は、ドグマチール(スルピリド)は胃薬、抗うつ剤、統合失調症薬のみの効果を期待して使用されることは少なく、抗うつ剤との併用やうつによる胃の症状(吐き気など)の緩和を目的として使うことが多い
- ドグマチール(スルピリド)は、交感神経を抑制する作用とドパミンD2受容体をブロックする2つの作用機序がある
- ドグマチール(スルピリド)は離脱症状をほとんど起こさない
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