不眠症の治療で使われている薬の多くは「ベンゾジアゼピン系」と言われる睡眠薬です。
代表例は、ハルシオン、レンドルミン、サイレース…です。
聞き覚えのある睡眠薬かもしれません。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、副作用(ふらつき、転倒、耐性、依存など)が起こることが多く、特に高齢者には使いにくいです。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系と比較すると、睡眠効果(強さ)はやや劣りますが、副作用が起こる頻度を減らしたバランスの取れた睡眠薬です。
発売年 | 睡眠薬名 | 主成分名 |
---|---|---|
1989年 | アモバン | ゾピクロン |
2000年 | マイスリー | ゾルピデム |
2012年 | ルネスタ | エスゾピクロン |
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は現在3種類発売されており、効果(効果)、副作用など違いも若干あります。
アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)の作用機序
ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA受容体の働きを強めて効果(睡眠作用)を発揮します。
GABA受容体は脳の活動を抑制させる神経に関係しています。
GABA受容体の働きが強いと、脳の働きが抑えられ眠くなります。
GABA受容体のω受容体(オメガ受容体)には、ω1受容体とω2受容体があります。
ω2受容体:筋弛緩、けいれん、不安、記憶などに関係する
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ω1受容体とω2受容体の両方を強めるため、副作用(ふらつき、転倒など)が出ることがありますが、
アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)は、ω1受容体を選択的に強めるため、ふらつき、転倒などの副作用が起こりにい睡眠薬です。
レム睡眠、ノンレム睡眠
睡眠が「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類があることはよく知られています。
レム睡眠
レム睡眠のレムはRapid Eye Movementsの略語REMで、英語の通り睡眠中の眼球運動が特徴的です。
レム睡眠中は脳の活動は活発で血圧と脈拍の変動が比較的多いですが、体の筋肉は緩いんでリラックスしています。
ノンレム睡眠
ノンレム睡眠は、浅い睡眠のステージ1から深い睡眠のステージ4まであります。
ノンレム睡眠 | 眠りの質 | 別名 |
---|---|---|
ステージ1 | かなり浅い睡眠 | – |
ステージ2 | 浅い睡眠 | – |
ステージ3 | 中程度の睡眠 | 徐派睡眠 (リラックス状態) |
ステージ4 | 深い睡眠 |
中程度~深い睡眠である徐波睡眠は睡眠の最初に多く見られ、加齢と共にその時間が短縮していきます。
歳を取ると、眠れているのに眠った気がしなくなるのはこのためです。
ノンレム睡眠とレム睡眠の周期
ノンレム睡眠とレム睡眠の周期は約90分間です。
朝になるにつれ、徐波睡眠が減っていきます。
入眠時
ノンレム睡眠
(ステージ1→2→3→4→3→2→1)
↓
レム睡眠
↓
ノンレム睡眠
(ステージ1→2→3→4→3→2→1)
↓
朝になるにつれ
↓
レム睡眠
↓
ノンレム睡眠
(ステージ1→2→(3)→(4)→(3)→2→1)
↓
目覚め
睡眠の質
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、中程度~深い睡眠である徐波睡眠と、リラックスした睡眠であるレム睡眠を減少させ、浅い眠りを増加させます。
そのため、深く眠った感じが得られにくい睡眠薬でした。
アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)は、中程度~深い睡眠である徐波睡眠を増加させ、レム睡眠に対する影響が少ない睡眠薬です。
そのため、自然に眠った感覚に近い睡眠を得ることができます。
効果(強さ)の違い
睡眠薬の効果は個人差が大きく、強さの比較は難しいです。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の睡眠薬全体としての効果(強さ)の印象は次のとおりです。
>ベンゾジアゼピン系
>非ベンゾジアゼピン系
>ベルソムラ
>ロゼレム
アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)の効果(強さ)の印象は次の通りです。
>マイスリー(ゾルピデム)
>ルネスタ(エスゾピクロン)
ただし、使用する用量(mg数)により印象は違います。
アモバン(ゾピクロン)はマイスリー(ゾルピデム)より眠れるが、苦みのため起きる、朝まで苦いのが嫌という意見が多いです。
参考
ロゼレム
>非ベンゾジアゼピン系
>ベルソムラ
≧ベンゾジアゼピン系
>>バルビツール酸系
ただし、ベルソムラは発売後のデータの蓄積が不十分で、わからないことが多いです。
今のところ、睡眠薬の安全性は上記のように(私は)考えていますが、ベルソムラは一部のベンゾジアゼピン系に劣るかもしれません。
効果発現時間の違い (最高血中濃度到達時間)
どの睡眠薬も服用後30分~60分程度で効果がでてきますが、睡眠薬の効果が最大になる時間は「最高血中濃度到達時間」から推測できます。
マイスリー(ゾルピデム)
>アモバン(ゾピクロン)
≒ルネスタ(エスゾピクロン)
睡眠薬 | 用量 | 最高血中濃度到達時間 |
---|---|---|
アモバン (ゾピクロン) |
7.5mg | 1.17時間 |
10mg | 0.75時間 | |
マイスリー (ゾルピデム) |
5mg | 0.8±0.3時間 |
10mg | 0.8±0.3時間 | |
ルネスタ (エスゾピクロン) |
1mg | 1.0時間 |
2mg | 1.0時間 | |
3mg | 0.75時間 |
効果が弱くなる時間の違い (消失半減期:t1/2)
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は超短時間型睡眠薬に該当するため、睡眠効果はあまり持続しませんが、
睡眠薬の効果が半減するだろうと考えられる時間は、添付文書の「消失半減期」から推測できます。
ルネスタ(エスゾピクロン)
>アモバン(ゾピクロン)
>マイスリー(ゾルピデム)
睡眠薬 | 用量 | 消失半減期 |
---|---|---|
アモバン (ゾピクロン) |
7.5mg | 3.66時間 |
10mg | 3.94時間 | |
マイスリー (ゾルピデム) |
5mg | 2.06±0.3時間 |
10mg | 2.30±0.3時間 | |
ルネスタ (エスゾピクロン) |
1mg | 4.83±0.89時間 |
2mg | 5.08±1.62時間 | |
3mg | 5.16±0.85時間 |
主な副作用の違い
– | アモバン (ゾピクロン) |
マイスリー (ゾルピデム) |
ルネスタ (エスゾピクロン) |
---|---|---|---|
副作用1 | 苦み(4.18%) | ふらつき(4.0%) | 味覚異常(21.0%) |
副作用2 | ふらつき(0.89%) | 眠気(3.4%) | 頭痛(10.7%) |
副作用3 | 眠気(0.51%) | 頭痛(2.8%) | 傾眠(7.8%) |
副作用4 | 口渇(0.48%) | 倦怠感(2.8%) | 浮動性めまい(5.1%) |
副作用合計 | 831例(7.12%) | 190 例(17.2%) | 819 例(50.0%) |
アモバン:再審査終了時
マイスリー:承認時
ルネスタ:外国並行群間比較試験
アモバン(ゾピクロン)とルネスタ(エスゾピクロン)の苦みの副作用
アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)の中で、マイスリー(ゾルピデム)が最も使用される頻度が高い決定的な理由があります。
アモバン(ゾピクロン)とルネスタ(エスゾピクロン)は、口の苦みの副作用があり、朝まで苦い思いをする場合があるからです。
苦みの副作用がでる理由
苦みの副作用は、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)の成分そのものと、その代謝物が原因だと言われています。
睡眠薬を飲んだ時だけ苦いのであれば多少我慢できますが、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)は、飲んだ後もじわじわと苦みが続きます。
アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)は2度苦い
苦みの副作用は、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)の成分そのものと、その代謝物が原因だと言われています。
- アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)の成分が吸収されて
- 代謝を受けて全身の血管をめぐり
- アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)の代謝物が唾液からも分泌され
睡眠薬を飲んだときだけ苦いのであれば多少我慢できますが、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)は、飲んだ後もじわじわと苦みが続きます。
苦みは慣れるか?
薬を飲んでいると、副作用に耐性ができて副作用に慣れるということがあります。
しかし、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)の苦みには、副作用の耐性はなく、苦みが軽減さえるということはありません。
苦みが気になって、さらに眠れないという方もいるくらいです。
副作用の苦みのデータでは、ルネスタ(エスゾピクロン)の副作用が突出していますが、データを取った時期が違うため単純比較は出来ません。
実際の苦みは、ルネスタ(エスゾピクロン)の方がマシだそうです。
処方日数の違い
ルネスタ(エスゾピクロン)は向精神薬の指定を受けていない睡眠薬です。
処方日数制限がなく、医師が必要と認めれば、30日を越える処方できます。
マイスリー(ゾルピデム)は30日の処方を限度とする向精神薬のため、ゴールデンウィーク、正月、海外旅行など、特別な事情があっても30日を越える処方はできません。
アモバン(ゾピクロン)は、以前は向精神薬ではありませんでしたが、2016年10月に向精神薬に指定され、2016年11月から30日の処方日数制限を受けるようになりました。
服用量の違い
アモバン (ゾピクロン) |
マイスリー (ゾルピデム) |
ルネスタ (エスゾピクロン) |
|
---|---|---|---|
成人用量 | 7.5~10mg | 5~10mg | 2mg~ |
高齢者 | 記載なし | 5mg~ | 1mg~ |
最大用量 | 10mg | 10mg | 成人3mg 高齢者2mg |
アモバン(ゾピクロン)とルネスタ(エスゾピクロン)は兄弟関係にある
アモバンの主成分は、ゾピクロンです。
ルネスタ(エスゾピクロン)の主成分は、エスゾピクロン(S-ゾピクロン)です。
このエスゾピクロンは「ゾピクロンからより効果のある成分を抽出した成分」と考えると分かりやすいと思います。
エスゾピクロンこそが効果を示す大部分と考えられているため、少量でもアモバン(ゾピクロン)より強い効果が期待できると考えられて開発されました。
しかし、各睡眠薬の最大用量で効果(強さ)を比較すると、
アモバン(ゾピクロン)の方が、しっかりとした睡眠効果を得られるようです。
まとめ
- アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)は、睡眠に直接関係する受容体に対する選択性が高いため、ふらつき、転倒などの副作用が起こりにくい
- アモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)は、自然に眠った感覚に近い睡眠をえられる
- 睡眠効果の強さの違い
アモバン(ゾピクロン)>マイスリー(ゾルピデム)>ルネスタ(エスゾピクロン) - 睡眠効果が出てくる速さの違い
マイスリー(ゾルピデム)>アモバン(ゾピクロン)≒ルネスタ(エスゾピクロン) - 睡眠効果の持続力の違い
ルネスタ(エスゾピクロン)>アモバン(ゾピクロン)>マイスリー(ゾルピデム) - アモバン(ゾピクロン)とルネスタ(エスゾピクロン)には、口の苦みの副作用があり、不人気
- ルネスタ(エスゾピクロン)は30日を越える処方が可能だが、マイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)とは30日を超える処方はできない
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