皮膚科を受診したとき、青やピンク色のフタのプラスチック容器に入った塗り薬をもらった経験があるのではないでしょうか?
この容器には1種類の塗り薬が入っていることは少なく、2種類以上の軟膏を混合した薬が入っています。
そして、この混合軟膏を渡すときによく受ける質問がこれなんです。
- 使用期限はどれくらいですか?
- 保存は冷蔵庫がいいですか?
- ベチャッとなっていても使えますか?
患者さんにとっては何気ない質問だと思いますが、薬剤師にとってはこの手の質問は難問のひとつです。
軟膏を混合するメリットとデメリットも合わせながら、その質問にお答えしましょう!
混合軟膏のメリット
メリット1: 塗り薬を塗る手間の軽減
何回も塗る手間を省き、正しい回数を使えるように軟膏は混合されます。
これが軟膏を混合するメリットの1つ目です。
例えば、アトピーは毎日・1日2回以上・塗る場所で、塗り薬を使い分けなくてはなりません。
例えばこんな感じですね。
- ヒルドイドを全身に塗る
- マイザー軟膏(ステロイド)を体に塗る
- プロトピックを顔に塗る
ヒルドイドとステロイドの塗る順番はコチラ!
『発表!ヒルドイドの順番 化粧水/乳液/ニキビ薬/ステロイド』
プロトピックとステロイドの違いはコチラ!
『プロトピック軟膏(アトピー薬)の効果と塗り方使い方 ステロイドとの違い』
全身に塗り薬を塗る場合、1回塗るだけでもそうとうな時間がかかります。
それを毎日数回行うと思えば、それはたいへんな作業です。
1日2回使うように言われていても、1週間経てば1日1回しか塗布しなくなっている。
そのようなことも十分に考えられます(実際、ほとんどの方がしっかり塗っていません)。
メリット2: 皮膚の浸透力を上げる効果
ステロイド軟膏に、ヒルドイドソフト軟膏、パスタロンソフト軟膏のような油脂性ベース基剤(W/O型)の保湿剤を混ぜると、皮膚への浸透力が上がることが知られています。
これが混合する2つ目のメリットです。
ヒルドイドソフト軟膏・パスタロンソフト軟膏
軟膏と名前が付いていますが、実は乳化剤を使った油脂性成分をベースとしたW/O型クリームです。
クリームは軟膏に比べて、皮膚への浸透性が高いと言われています
例えば、アンテベート軟膏0.05%とプロペト(白色ワセリン)を、1:1で混合したとしましょう。
アンテベート軟膏は半分の0.025%になります。
ですので、理論上は効果も半分になるはずですよね?
しかし実際は、アンテベート軟膏0.05%とプロペト(白色ワセリン)の1:1に混合しても、アンテベート軟膏の半分の効果にはなりません。反対に吸収力が上がるのです。
この謎はコチラの記事で解説中!
『ステロイドが怖い!ヒルドイドやワセリンで薄めると強さも弱くなる?』
混合軟膏のデメリット
デメリット1: 混合すると効果が不明確になる
塗り薬の効果は、塗り薬自体の強さ、皮膚の状態、塗る量、塗る回数で決まります。
さらに、混合により効果を変化させる要素がひとつ増えます。
「混合する2つ目のメリット」で解説した通り、ステロイド軟膏に(W/O型)保湿剤を混合すると皮膚浸透力が上がります。
しかし、混合軟膏の効果の増減データがあるわけではないため、混合による相乗効果は経験則でしかないのです。
デメリット2: 混合軟膏の汚染
メーカーが開発したチューブ入りの塗り薬は、理想的な保存状態です。
チューブから軟膏を外へ出せば、汚染が始まります。
軟膏容器に詰めた軟膏を、清潔ではない指で触ればさらに汚染は進みます。
混合軟膏の保存の方法、使用の仕方は千差万別で、混合軟膏の汚染について調べた信頼できるデータも見当たりません。
混合軟膏の汚染については、だれもわからないのです。
汚染された軟膏を塗ると、細菌感染・症状悪化などを起こす可能性があります。
飲み薬と同様に軟膏も使い方が肝心です。
『これだけは知っておきたい!塗り薬の使い方(量・回数・順番)』
デメリット3: 混合軟膏の使用期限がわからない
開封軟膏の使用期限は?
軟膏チューブの下に書かれている使用期限は、室温(塗り薬によっては冷蔵庫)で保存して開封するまでの使用期限です。
軟膏を一度開封すると、使用期限は大きく短縮されると考えなければなりません。
なぜなら、先に解説したように汚染が始まるからです。
薬局によっては「軟膏の開封後の使用期限は2週間・1カ月・3カ月…」といわれることもありますが、これは経験則にもとづくもので、目安として受け止めるべきです。
本当は、開封した軟膏の保存状態は人それぞれ(汚染状況が異なる)なので、使用期限を一概に決められません。
混合した場合は、2つの目線から使用期限を考える必要がでてきます。
- 混合軟膏の効果と配合変化(保存)
- 混合軟膏の清潔さ(汚染)
混合軟膏の効果と配合変化(保存)
軟膏・クリーム配合変化ハンドブックの第2版がついに出ました。
このような便利な本がありますので、混合後の配合変化(保存)調べることは可能です。
皮膚科の混合軟膏の処方箋を受ける薬局は、たいてい常備しています。
これがないと、混合軟膏についての保存を語れません。それだけ内容の濃い本です。
軟膏、クリームの混合の配合変化を、強引に一般化するとこうです。
軟膏 | クリーム (W/O) |
クリーム (O/W) |
|
---|---|---|---|
軟膏 | ○ | △ | × |
クリーム (W/O) |
△ | △ | × |
クリーム (O/W) |
× | × | △ |
○:安定
△:分離する場合がある
×:混ざらない(混合不適)
デメリット4: 自己負担が増える
軟膏の混合を計量混合といいます。
2種類以上の塗り薬を混合することで、80点(3割負担で240円)の加算料が発生します。
混合軟膏の保存方法
あまり語られることがありませんが、混合軟膏は保存にも気をつける必要があります。
混合軟膏の保存は部屋?冷蔵庫?
チューブの塗り薬は、ほとんどが室温(1℃~30℃)保存ですので、混合軟膏も基本的には涼しい部屋での保存でOKです。
ただし、「軟膏・クリーム配合変化ハンドブック(第1版)」によると
という混合軟膏もあります。
「室温×冷所○」の薬を「軟膏・クリーム配合変化ハンドブック(第1版)」から引用するとこうです。
- マイザーとザーネの混合
- アズノールとザーネの混合
- アルメタとザーネの混合
ザーネの混合はブリーディング(水と油が分離した状態)を起こしやすいようです。
混合軟膏のブリーディング
夏は部屋で保存すると、混合軟膏がブリーディングを起こす場合があります。
分離された水は汚染されやすいため、ブリーディングが起こった場合は、すぐに冷蔵庫保存に切り替えましょう。
夏場は室温以上に部屋の温度があがります。
ブリーディング防止のため、混合軟膏は冷蔵庫保存がちょうどいいのかもしれません。
『ザーネ軟膏(病院用)とザーネクリーム(市販)の成分と効果の違い』
軟膏の混合方法と詰め方【動画】
薬局ではどのようにして混合軟膏を作っているのでしょうか?
動画で解説してしめくくります。
軟膏混合機を使えば薬剤師の混合技術の差がでないので、毎回一定水準の混合薬が作れます。
しかし、軟膏混合機はハイコストです。
実際は、薬剤師が軟膏ベラと軟膏台を使って混合しているところがほとんどです。
こんな感じにです。
- すべての器具と容器、薬剤師の手をエタノールなどで消毒する
- 軟膏を絞り出す(または計る)
- 軟膏を少しずつ混合する
- 均一に混合されているのを確認する
- 軟膏つぼの壁に擦りつけるように(押しつけるように)つめる
- タッピングをして空気を抜く
- 表面を滑らかにする
- ティッシュなどで横についた軟膏をふき取り、消毒する
『ぜひ、確かめてください!ヒルドイド・プロペト(ワセリン)・混合薬』
まとめ
塗り薬は使わなければ意味がありませんよね。
薬の混合はデメリットが多いですが、手間を省き正しい回数を塗るために行われます。
混合軟膏の汚染防止3か条
- 使用前は手を洗う。
- フタなどに薬をつけたままの状態で保存しない。
- 夏は冷蔵庫保存する(例外もあり)
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