帯状疱疹後神経痛は帯状疱疹の後に残る怖い後遺症です。
次にあてはまる方は、帯状疱疹後神経痛になりやすいことが分かっています。
- 帯状疱疹の治療が遅れたとき
- 帯状疱疹が重症だったとき
- 50歳以上の方
- 糖尿病などの神経にかかわる病気がある方など
帯状疱疹後神経痛は、万人向けの治療法がまだ確立していません。
帯状疱疹後神経痛薬も、効果と副作用の個人差が大きいため、ひとつひとつ手探りで用量用法を確定していきます。
そのため、今回紹介するトラムセットとリリカが効かないということも普通に起こります。
その際は、トラムセットとリリカの併用や、鎮痛補助薬(トリプタノールなど)の併用を行う場合もあります。
帯状疱疹後神経痛の治療の全体像
帯状疱疹後神経痛の原因と症状の理解が、これから先の帯状疱疹後神経痛薬の理解を深めます
帯状疱疹後神経痛は、万人に効く治療法が確立されていません。
これが、帯状疱疹後神経痛が帯状疱疹の怖い後遺症である理由のひとつです。
帯状疱疹後神経痛の治療で、最初に試されるのが薬物治療です。
皮膚科でもある程度は対応してくれますが、痛みのコントロールができないようであれば、麻酔科、ペインクリニック、専門外来を紹介されます。
紹介先では、神経ブロックやリハビリ(理学療法)などを併用することが多いようです。
リリカ(帯状疱疹後神経痛薬1)
リリカはOD錠発売予定
左:リリカカプセル25mg
右:リリカカプセル75mg
※リリカは150mgのカプセルもあります。
リリカOD錠(ゆず味の口腔崩壊錠)が6月~7月くらいに発売予定です。
発売後は、カプセルからOD錠への変更が一気に進む可能性があります。
リリカは神経痛薬(神経性の痛み止め)
リリカはプレガバリンを主成分とする薬です。
リリカは神経障害性疼痛治療薬(しんけいしょうがいせいとうつうちりょうやく)といわれ、その名の通り神経痛(神経性の痛み)に効果があります。
販売当事、リリカは帯状疱疹後神経痛薬そのものでしたが、現在では保険適応が拡大され、さまざまな神経痛を和らげる薬として使われています。
- 帯状疱疹後神経痛
- 糖尿病性末しょう神経障害の痛み
- 脊髄損傷後疼痛
(せきずいそんしょうごとうつう)
痛み止めはロキソニンが有名ですね。リリカは神経痛専用のロキソニンのイメージです。
リリカの効果
帯状疱疹の神経痛は、痛みを伝える物質(神経伝達物質)が必要以上に作られることが原因と考えられています。
リリカは、痛みを伝える物質の過剰生成を抑えて神経痛を和らげます。
臨床試験ではリリカはプラセボより効果があったことは言うまでもありませんが、効果の質(効くか効かないか)は個人差があります。
リリカの副作用を和らげる飲み方
販売当時、リリカ75mgを1日2回から服用開始し、少しずつ増量する治療法が主流でした。
しかし、リリカには特有の副作用(後述)があり、
リリカ75mgからスタートした場合、副作用のためリリカを飲み続けられなくなる場合が多いです。
現在は、1日1回寝る前リリカ25mgからスタートして、神経痛への効果と副作用の様子をみながら増量する治療法が主流になりつつあります。
リリカ25mgでは全然効かない。
さらに増量してもなかなか効かないことが一定頻度で起こります。
そのときは、痛みが改善する量まで少しずつ増量します。
中止する場合も、リリカを一気にやめると副作用があらわれることがあるため、少しずつ減量していきます。
リリカの主な副作用
国内での臨床試験(帯状疱疹後神経痛)の副作用結果によると
副作用 | 頻度 |
---|---|
めまい | 23.4% |
傾眠(うとうと) | 15.9% |
浮腫(むくみ) | 10.7% |
意識消失 | 0.3%未満 |
リリカの副作用は、運転の危険性、歩行の危険性(特に高齢者)です。
本剤の投与によりめまい、傾眠、意識消失等があらわれ、自動車事故に至った例もあるので、本剤投与中の患者には、自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。
特に高齢者ではこれらの症状により転倒し骨折等を起こした例があるため、十分に注意すること。
リリカの添付文書(重要な基本的注意より)
リリカは鎮痛剤の一種です。
なぜ、鎮痛剤でこのような変わった副作用がでるのでしょうか?
リリカで、めまい、傾眠の副作用が出やすい理由
リリカで、めまいなどの特有の副作用がでやすい理由は、
リリカは抗けいれん薬ガバペンと薬の構造と作用の仕方が似ているからです。
ガバペンは抗けいれん薬ですので、傾眠(33.5%)、浮動性めまい(15.9%)の副作用が出現しやすいです。
また、ガバペンはアメリカでは帯状疱疹後神経痛の治療薬として使用されています。
日本でも使用される場合もあります(保険未承認)
トラムセット(帯状疱疹後神経痛薬2)
トラムセットはトラマドールとアセトアミノフェンの配合剤
トラムセットは麻薬と思っている方も多いようですが、麻薬指定はされていません。
そのため処方日数制限はなく、長期処方が可能です。
トラムセットはトラマドールとアセトアミノフェンの配合剤で、ガン以外のあらゆる慢性的(持続的)な痛みに使用します。
アセトアミノフェンは頭痛などの炎症性の痛みを和らげることができますが、
帯状疱疹後神経痛はその名の通り神経痛(神経性の痛み)かつ慢性的な痛みですので、ほとんど効果は期待できません。
したがって、トラムセットはトラマドールの効果を期待して飲みます。
つらい偏頭痛(片頭痛)
トラムセットの効果と作用
トラムセットの主成分トラマドールは、脳を痛みに対して鈍感にさせたり、痛みの情報が脳に伝わりにくくする効果があると考えられています。
トラマドールの「脳を痛みに対して鈍感にする効果」は、脳の中枢に働きかける作用のため、鎮痛効果はロキソニン、セレコックスなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)と比較にならないほど強力です
国内長期投与試験では、トラムセットの鎮痛効果は、52週まで持続することが確認されています。
トラムセットは、帯状疱疹後神経痛以外では整形外科で使用されるケースが多いです。
- 変形性関節症の痛み
- 関節リウマチの痛み
- 腰痛
- 肩、首の慢性的な痛み
変形性関節症に効果のある湿布
トラムセットの副作用を和らげる飲み方
通常、トラムセットを1回1錠~2錠を1日4回に分けて飲みますが、この飲み方では副作用が強く出るため多くが脱落します。
(リリカもそうでしたね)
トラムセットを1日1回1錠寝る前からスタートして、鎮痛効果と副作用の様子をみながらステップアップする方法が取られる場合が多いです。
トラムセットを寝る前からスタートする理由は、
朝食後にスタートする場合と比べて、胃腸系副作用(吐き気、便秘など)と意識系副作用(めまい、傾眠、眠気など)が起こる頻度が低いからです。
トラムセットの副作用(吐き気、眠気など)
副作用 | 頻度 |
---|---|
悪心(吐き気) | 40%以上 |
嘔吐 | 20%以上 |
傾眠 | |
便秘 | |
めまい | |
意識消失 | 0.2%未満 |
眠気 | 頻度不明 |
トラムセットの副作用のほとんどは、胃腸系副作用(吐き気、便秘など)です。
これらの副作用は、トラムセットの中枢に働きかける作用が原因です。
胃腸系副作用(吐き気、便秘など)は、服用したその日から発生し、1~2週間程度で落ち着いていきます。
吐き気の副作用を抑えるためには、トラムセットはプリンペラン(メトクロプラミド)、ナウゼリン(ドンペリドン)の併用が有効です。
便秘の副作用を抑えるためには、マグラックス、マグミット(酸化マグネシウム)の併用が有効です。
※マグラックスは、酸化マグネシウム「ヨシダ」に名称変更されています。
トラムセットの禁忌薬と併用注意薬
トラムセットを服用できない方もいます。
- パーキンソン病の治療薬であるエフピー(セレギリン塩酸塩)を服用中の方
- エフピーの服用を中止してから14日以内の方
トラムセットの主成分のひとつアセトアミノフェンは、頭痛や発熱の症状などで処方される頻度が高く、さらに市販薬としても販売されているため、1日に服用するアセトアミノフェン量に注意が必要です。
アセトアミノフェンを含む医療用薬の例
- PL配合顆粒
- SG配合顆粒
- カロナール
- コカール
アセトアミノフェンを含む市販薬の例
- タイレノール
- ノーシン
- バファリンルナ
鎮痛補助薬の全体像
帯状疱疹後神経痛の治療では、鎮痛薬の効果を高めるために鎮痛補助薬が併用されることがあります。
鎮痛補助薬とは、主作用が痛み止め以外の目的で使われている薬ですが、特定の痛みに効果がある薬のことです。
ただし、この薬も万人の痛みに有効というわけではありません。
帯状疱疹から帯状疱疹後神経痛に移行させないためには、何よりもヘルペス飲み薬の早期服用が重要です。
トリプタノール(鎮痛補助薬)
鎮痛補助薬は非常に種類が多い上に誤解を生む可能性があるため、トリプタノールの紹介のみにとどめておきます。
トリプタノールの効果
トリプタノールは三環系抗うつ薬です。
三環系抗うつ薬は、神経障害性疼痛を含む慢性の痛みに効果があることがわかっています。その中でも、トリプタノールが比較的多く使われています。
トリプタノールには、神経障害性疼痛の保険適応がないため、飲む方の痛みの状態に合わせて用量を調整していきます。
使用頻度が高いその他の三環系抗うつ薬
- ノリトレン(ノルトリプチリン)
トリプタノールは日本頭痛学会推奨グレードAの偏頭痛予防薬でもあります
トリプタノールの鎮痛補助薬としての飲み方
少量(トリプタノール10mg~25mg)を1日1回寝る前 からスタートして、鎮痛効果と副作用の様子をみて増量していきます。
トリプタノールの痛みに効く量や副作用は決まっていないため、飲む方の痛みに合わせて、用量を調整します。
トリプタノールの副作用
トリプタノールは抗うつ薬のため、次のような副作用があります。
- 眠気、喉の渇き(5%以上)
- 悪心、便秘、排尿困難(5%未満)
トリプタノールの副作用を逆手にとって主作用とすることで、帯状疱疹後神経痛による不眠症状に有効かもしれません。
帯状疱疹後神経痛がひどくて眠れないときは、睡眠剤を使う場合もあります。
トラムセット、リリカ、トリプタノールの併用
トラムセット、リリカ、トリプタノールは薬の作用が違います。
眠気・吐き気などの副作用が増強される可能性はありますが、併用は問題ありません。
しかし、私の知る限り併用効果を立証したエビデンス(証拠)がありません。
そもそも論ですが、帯状疱疹後神経痛は個人個人の痛みのレベルが違うため、効果も飲んでみるまでは、はっきりわかりません。
つまり、帯状疱疹後神経痛薬リリカが効かないが、鎮痛補助薬トリプタノールが効く方もいるのです。
そのため、トラムセット、リリカ、トリプタノールを併用しても、効果があるかどうかは併用してみないとわからないです。
水疱瘡ワクチンで帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を予防するという方法もあります。
まとめ
- 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の後に残る怖い後遺症
- その理由は
①神経を一度損傷すると回復に時間がかかり、また回復しない場合もある
②万人に効く痛みの治療法が確立されていない - 帯状疱疹後神経痛の治療で使用頻度が高い薬は、トラムセット、リリカ
- リリカは意識系の副作用が多い
- トラムセットは、胃腸系の副作用が多い
- トラムセット、リリカは、副作用を起こさないように、少しずつ増量していく飲み方がよい
- トリプタノールは、鎮痛補助薬として帯状疱疹後神経痛に使用されることがある
- トラムセット、リリカ、トリプタノールを併用しても、効果があるかどうかは併用してみないとわからない
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