正しく使えばステロイドはアトピー性皮膚炎(以下、アトピー)に有効です。
しかし、ステロイドはあまり歓迎されない薬であり、自らステロイドを断つ脱ステロイド(脱ステ)をする方もいます。
さらに脱ステロイドを推奨する医師もあり、脱ステロイドでアトピーが治る方がいるようです。
実際のところは、脱ステロイドでアトピーが治る方というのはほんの一握りで、脱ステロイドをしたほとんどの方は、離脱症状(リバウンド)で脱ステロイド組から早期離脱します。
(自主的脱ステロイドではアトピーは治らない)
アトピーとステロイドと保湿剤
多くの医師は、アトピーを火事に例えて説明します。
アトピーは炎がメラメラ燃えている火事です。
- 燃えまくっている火事には、大量の水をかけなくては消火できません。
(炎症・かゆみの強いアトピーには、相応の強さのステロイドが必要) - 火で燃えないためには、燃えにくい木が必要です。
(アトピーを悪化させないためには、保湿剤が必要)
アトピー治療には、ステロイドと保湿剤が必須であることをまずご理解ください。
アトピーにステロイドが必要な理由
1999年にプロトピック軟膏(タクロリムス軟膏)が発売され、アトピー薬の選択肢が増えました。
しかし、ステロイドはアトピー治療の主薬(主役)であることは変わりありません。
- ステロイド軟膏
- プロトピック軟膏
ステロイドの成分は化学合成された副腎皮質ホルモンです。
副腎皮質ホルモンはもともと体内でつくられますが、何らかの理由で生成不足になる場合もあります。
副腎皮質ホルモンを内部から補う薬が、プレドニンやリンデロンというステロイド内服薬で、外部から補う塗り薬が、デルモベートやアンテベートといったステロイド軟膏です。
ステロイドのアトピーに対する効果は主に2つです。
- 抗アレルギー効果
- 抗炎症効果
この2つの効果を利用して、アトピーで起こるかゆみ、赤み・腫れの症状を改善します。
アトピーに保湿剤が必要な理由
皮膚にはバリア機能があります。
正常肌は、バリア機能が働いて異物を皮膚の表面でブロックします。
しかし、アトピー肌のバリア機能は正常肌より弱いため、異物の一部を肌に取り込み、かゆみや炎症などが起こします。
アトピー肌のバリア機能を補うための主薬が、水分を肌にとどまらせて乾燥肌を改善する保湿剤ヒルドイド(ヘパリン類似物質)です。
皮膚を保護するために、肌の水分が逃げるのを抑えて乾燥肌を改善する塗り薬が皮膚保護剤プロペト(白色ワセリン)もよく使われます。
脱ステロイドを決心する理由
脱ステブログに注意
「脱ステ ブログ」というキーワードで検索すると、多くの脱ステブログが現れます。
(2017年5月:317000件)
ステロイドが多くの方に嫌われ、多くの方が脱ステロイド(脱ステ)に興味をもっているのかがわかります。
薬剤師として皮膚科を担当していると、ステロイドに対する恐怖や誤解がひしひしと伝わってきます。
「脱ステブログ」を検索するときは、一体誰が何の目的で脱ステブログを書いているのかをよく考えて読んでください。
脱ステロイド(脱ステ)を決心する心理状況
脱ステブログを見ていると、脱ステロイド(脱ステ)を決心する心理状況は、同じような過程をたどるようです。
- ステロイドを使えばアトピーはよくなるが、使わないと悪化する。治らない
(ステロイドの止め方が問題) - アトピーにステロイドを使い続けると、強いステロイドを使わないと効かなくなる。治らない
(ステロイドの使い方が問題) - ステロイドではアトピーは治らないのでは?
- このまま使い続けて大丈夫か?
- この先どうなるのか心配?
- 脱ステロイド(脱ステ)を支持する医師もいる
- 多くの脱ステブログもある
- 私も脱ステロイド(脱ステ)をやってみよう
脱保湿を決心する理由
同様に「脱保湿 ブログ」というキーワードで検索すると、157000件という多くの脱保湿ブログが現れます。
(2017年5月)
- 保湿剤を使うと(保湿すると)自然治癒力が下がる
- 皮膚を甘やかしてはいけない
- 私も脱保湿をやってみよう
脱保湿の解釈は正論にも見えますが、アトピーで保湿剤を使う理由の理解が不十分です。
(先述:「アトピーに保湿剤が必要な理由」参照)
火で燃えないためには、燃えにくい木が必要でしたね。
脱ステロイドの離脱症状 (脱ステに失敗する理由)
脱保湿には離脱症状はありません。
そのかわり、保湿剤を使わない期間は皮膚のバリア機能が下がり、かゆみ、赤み、細菌感染など、ありがたくない症状が多くの方に起こります。
脱ステロイドを開始するとき、多くの方は医師に相談することなくステロイドをスパッと止めてしまいます。
(脱ステロイドを医師に相談した場合、「やめなさい」とたしなめられるでしょう)
すると、脱ステロイドの離脱症状(リバウンド)が起こります。
この記事でいう離脱症状(リバウンド)とは、ステロイドを塗っていたときよりアトピーが悪化することをいいます。
脱ステロイドの離脱症状
脱ステロイドの離脱症状の強弱は、アトピーにどの強さのステロイドをどのくらいの期間塗ったかに比例する場合が多いです。
脱ステロイドの離脱症状の例
- 夜も眠れない猛烈なかゆみ
- かゆみのため全身を掻きむしり、細菌感染が起こる
- 炎症による色素沈着と苔癬化(たいせんか:皮膚が分厚くなること)
脱ステブログには、離脱症状に耐える・克服する(??)という解釈もあるようですが、これらの症状はアトピーが悪化して皮膚のバリア機能が破綻している非常に危険な状態です。
根性論ではアトピーは治りません。
脱ステロイドで離脱症状が起こる理由
ステロイドの抗アレルギー効果・抗炎症効果で、アトピーのかゆみと炎症は抑えられています。
皮膚の表面上はキレイに見えても、皮膚の奥ではアトピーの炎症が起こっている場合が多いです。
そこで、ステロイドを塗るのをスパッと止めたとたんにアトピーが再燃するのです。
(鎮火しかけてい火事に、水をかけるのをやめたら炎がまいがって大火事になった)
脱ステロイドの失敗
もともとアトピー症状が軽かった方は、脱ステロイドで成功するかもしれません。アトピーが治るかもしれません。
しかし、脱ステロイドを試みようとする方の多くは、アトピー中等症以上の方が多いようです。
そのような方が脱ステロイドをすると、離脱症状でアトピーが悪化して治りません。
脱ステロイドは失敗に終わります。
脱ステロイドでアトピーが治る方というのはほんの一握りで、脱ステロイドをしたほとんどの方は、離脱症状で脱ステロイド組から離脱します。
脱ステロイドでアトピーが治るのではなく、アトピーが治ってきて自然に脱ステロイドになるのが理想です。
ステロイドの止め方
ステロイドを止めるときは、少しずつ量を減らしながら止めていきます。
通常、スパッとステロイドを止めません。
もしくは、アトピーの症状が十分に治まったらプロトピック軟膏に切り替えます。
ステロイドの止め方1: ステロイドの減量
何度も言いますが、ステロイドはスパッと止めると離脱症状が起こりアトピーは治りません。
ステロイドを止めるときは、少しずつ量を減らしながら止めていきます。
ステロイドの理想的な減量方法はこのようなイメージですが、理想と現実は違います。
ステロイドを減量した途端に、コントロールされていたアトピーが再燃する場合があるからです。
脱ステロイドの離脱症状の症状は、アトピーにどの強さのステロイドをどのくらいの期間塗ったかに比例する場合が多く、
強ステロイドを長く使っていた場合、脱ステロイドにはそれなりの期間が必要です。
ステロイドの止め方2 プロトピック軟膏への切り替え
ステロイドが嫌われているせいか、
アトピーの炎症が強いときにステロイドで皮膚症状を安定させてからプロトピック軟膏に切り替える治療法を選択する医師は多いです。
ただし、プロトピック軟膏もすぐに中止してはいけません。
塗る回数と量を減量しながら、症状がなくても週に1~2回程、アトピー症状が出やすい場所に、プロトピック軟膏を継続して塗ります。
この治療法をプロアクティブ療法といいます。
ヒルドイドとステロイドの混合
「ステロイドは怖い副作用があるからできるだけ使いたくない!」
という心の声が聞こえてくるときもあります。
『ステロイドが怖い!ヒルドイドやワセリンで薄めると強さも弱くなる?』
まとめ
- 根拠のないアトピー民間療法には近づかない
- 自主的な脱ステロイドはおすすめしない
- なぜなら、脱ステロイドでアトピーが治る方というのはほんの一握で、多くの方は離脱症状で脱ステロイド組から離脱するから
- 脱ステロイドでアトピーが治るのではなく、アトピーが治ってきて自然に脱ステロイドになるのが理想
- 副腎皮質ホルモンを内部から補う薬がステロイド内服薬で、外部から補う塗り薬がステロイド軟膏
- アトピー肌のバリア機能を補うため、保湿剤ヒルドイドや皮膚保護剤プロペトを使用する
- ステロイドには止め方がある
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